「口頭指示は危険だから、仕事の指示は文書で残しましょう」といわれるようになって久しいですよね。おかげで、チャットやメールでのコミュニケーションが増え、隣の席同士でも言葉を交わすことがなくなったと嘆く年長者は多いようです。でも、口頭指示が本当に危険だということは、けっこう知られていないかもしれません。ある心理実験の結果から、口で言ったことがどれだけ伝わるかを認識しておきましょう。
- 忙しいときほど口頭で指示してしまいがちだけれど
- キーザーのコミュニケーション実験
- 「これしか伝わらないんだ」とがっかりしなくてもよいかも
- 大事なことはたびたび言う、文書に残す
忙しいときほど口頭で指示してしまいがちだけれど
バタバタしているときほど、「昨日の資料、進めておいて」などと、口頭での指示が多くなってしまいがちです。でも、仕事のミスはそんなときにこそ出ますよね。「昨日の資料」が何を示しているのか、正確にわかっているのはあなただけです。そして、どれだけ進めておけばいいのでしょうか。
部下と詳しくコミュニケーションできる時間があれば問題ありませんが、仕事上の一方的な指示は、情報を正確に伝えることが大事です。しかし、どんなに細かく、正確に伝えようとしても、伝えたいことが100%伝わるとは限らないことを、心理実験が示しています。
キーザーのコミュニケーション実験
シカゴ大学のボアス・キーザーは、コミュニケーションについて次のような実験を行いました。80名の大学生を、話し手役と聞き手役に分けます。話し手役には文章を手渡し、聞き手役に向かって読み上げさせた後、話し手役と聞き手役に、それぞれアンケートを行いました。
話し手役には、「相手はどのくらいあなたの話を理解できたと思いますか?」と聞きました。すると、期待する理解度の平均値は72%でした。一方で、「あなたは相手の話をどれだけ理解できましたか?」と聞き手役に尋ねました。すると、理解度の平均値は61%。実に11%の違いがみられたのです。
この11%の差異こそが、「言った」「言わない」のケンカに発展したり、受け手側の誤解による仕事上のミスにつながったりすることが考えられます。話は、そもそも6割程度しか正確に伝わらないようです。
「これしか伝わらないんだ」とがっかりしなくてもよいかも
仕事上に転がっているコミュニケーションのずれは、口頭指示ばかりではありません。会議場での発言や、プレゼンテーションについても同じことが言えます。頑張ってプレゼン資料を用意し、どんなにわかりやすいように原稿を工夫したとしても、みんなに伝わる内容は6割程度と心得ておいたほうがいいでしょう。
プレゼン後、「つまり、こういうことですよね?」と言われて、相手の論点がずれていても、「これしか伝わらないんだ。伝え方が悪いんだ」とがっかりする必要はありません。「この人は、いったい何を聞いていたのだろう」とイライラする必要はありません。なぜなら、口で言ったことが完璧に伝わらないのは、実験の結果でも明らかだからです。
大事なことはたびたび言う、文書に残す
期待する理解度と、実際の理解度の11%を埋めるためには、何度も繰り返し言葉にしたり、文書に残したりするほかありません。その文書も、渡された人が繰り返し読まなければ正確には伝わらない可能性があります。
「一度言っただけでは、言ったうちに入らない」と肝に銘じて仕事をしましょう。部下を呼ぶ前に、走り書きでもいいのでメモにペンを走らせるのがおすすめです。そうやって自分が書いたメモを見れば、どんな情報が足りていないかもわかるでしょう。整理した情報を相手に手渡すためにも、いったん文字にすることはおすすめです。
参考:『手にとるように社会心理学がわかる本』内藤誼人、かんき出版