身体的な危険を伴わない職場や、あるいは日常生活においても、ヒヤリ・ハットは黄信号として重要な意味を持つことをご存知でしょうか。ヒヤリ・ハットの根拠と、その重要性について解説します。
- 「ヒヤリ・ハット」のこと、どう思ってる?
- 300のヒヤリ・ハットで1つの事故! ハインリッヒの法則
- 事務系の職場であっても、ヒヤリ・ハットは重要
- 「ここ、いつも危ないと思ってたんだよね」と後悔する前に
「ヒヤリ・ハット」のこと、どう思ってる?
「ちょっとでも危ないと感じたら、すぐ報告するように」と言われて、あなたはどう思いますか。指導を受けたときには真摯に受け止めたとしても、実際には「この程度のこと、報告するには至らない」「報告しても、『それで?』で終わってしまいそう」と、ヒヤリ・ハットを無視してしまうことはないでしょうか。
しかし、ヒヤリ・ハットは、軽視されがちだからこそ恐ろしいともいえます。ヒヤッとしたこと、ハッとしたことの積み重ねが大きな事故の引き金になるというのは、単なる昔ながらの教訓や、人間の漠然とした経験則から来る戒めではありません。しっかりとした根拠のあることですから、ヒヤリ・ハットはかならず報告するようにしたいものです。
300のヒヤリ・ハットで1つの事故! ハインリッヒの法則
ヒヤリ・ハットの根拠となる法則は、正確には「ハインリッヒの法則」と呼ばれています。ハインリッヒとは、アメリカの損保会社で安全技術者として活躍していたウィリアム・ハインリッヒを指します。ハインリッヒは、会社が携わった5000件以上の事故事例を統計的に分析し、一つの法則を突き止めました。
それは、「1つの大事故の背景には、29の小さな事故があり、その裏にはさらに300のインシデントが存在している」というものです。これがハインリッヒの法則であり、日本でも「ヒヤリ・ハットの法則」と呼ばれるようになりました。
300のインシデントは、本当に些細な「気づき」であり、それは現場で実際に働いている人にしかわかりません。「この工程はいつもちょっと危ないな」「これをウッカリ忘れたら、大変な事故になりそうだ」という気づきこそが、重大事故を防ぐためのヒントになるのです。気づきを無視し続けることは、職場のみんなを危険にさらすことに相違ありません。
事務系の職場であっても、ヒヤリ・ハットは重要
ヒヤリ・ハットがあるのは、製造系の現場に限りません。事務系の職場であっても、ヒヤリ・ハットに気づき、報告し、改善のための対策を考えることは重要です。「このドキュメント、誰でも編集できるようになってるのは逆に危なくない?」「チャットのアイコンが似てるから、うっかり社外の人に業務内容を送り付けるところだった……」など、業務上のヒヤリやハットに覚えがありませんか。
データが瞬時に届いてしまうデジタル時代だからこそ、ヒヤリ・ハットの法則には学ぶところがあります。パソコンにかじりつきながらの「ヒヤリ」を、ぜひみんなで共有しましょう。意外と同じところに危険を感じている人がいるかもしれませんよ。
「ここ、いつも危ないと思ってたんだよね」と後悔する前に
ヒヤリ・ハットは、日常の生活にも潜んでいます。近所で交通事故があったときに、「ここ、いつも危ないと思ってたんだよね」という感想を持ったことはありませんか。「危ないな」と感じる場所の情報は、近所で話のタネにするだけではなく、自治体に報告してみてはいかがでしょうか。
あなた自身にとっては、一人だけが感じたたった一つの危機であっても、自治体には同じような情報がたくさん集まっているかもしれません。あなたの情報が、自治体を動かす「あと」一押し」の決め手となるかもしれないのです。
地震や水害など、日本は災害が非常に多い国です。小さな気づきが、大きな事故と人災を防ぐきっかけになります。自分自身の「ヒヤリ」や「ハット」を、みんなにとって貴重なものとして受け止めましょう。
参考:『ぐっと身近に人がわかる 対人関係の心理学』山口勧監修、技術評論社