近年、発達障害の一つとして、注意欠陥多動性障害(ADHD)が注目されています。教室で黙って座っていられないなどの特徴を持つADHDの児童は、クラスに1人か2人の割合で存在すると言われています。一体どんなサポートが有効なのでしょうか。
- 落ち着きがないだけではADHDと診断されない
- 『窓際のトットちゃん』黒柳徹子さんもADHDだった!?
- 二次障害を防ぐことが一番大事
- 具体的、肯定的な指示で本人に安心感を与える
- 成功体験を確保して自己肯定感を育てる
- 価値観が固定化している現代特有の障害ともいえる
落ち着きがないだけではADHDと診断されない
近年、注目されるようになったADHDについて、『子どもの育ちを支える発達心理学』(朝倉書店)と『危機を生きる』(ナカニシヤ出版)を参考にサポートの方法をまとめてみたいと思います。
ADHDの和名は、「注意欠陥」「多動性」障害です。文字からもわかるように、そわそわしている、じっとしていられない、忘れものが多いなどの特性があると、ADHDの可能性があると言われています。しかし、そういった性格の要素だけでは、ADHDとは診断されません。日常生活を送るのに困難をきたしているかどうかが、診断には重要になってくるからです。
『窓際のトットちゃん』黒柳徹子さんもADHDだった!?
黒柳徹子さんの自伝、『窓際のトットちゃん』には、トットちゃん(黒柳さん)が幼いころに小学校を転校したことが書かれています。実はこの転校、ただの転校ではありません。問題行動が多いことから、小学校から「辞めてもらいたい」と頭を下げられ、自由な校風の「トモエ学園」へ通うことになるのです。
転校前の小学校でトットちゃんがしたことといえば、授業中に鳥へ話しかけたり、机をバタンと閉める動作を何度も行ったり、先生からしてみれば授業妨害をしたとしぁ思えないことでしたが、幼いトットちゃんにはそういった自覚はまるでありませんでした。ただ、現在は黒柳さん自身も「発達障害であっただろう」と自ら認めています。
しかし注目すべきは、黒柳さんが「トモエ学園」ではのびのびと個性を開花させ、のちに何十年と第一線で活躍する芸能人となったことでしょう。発達障害には「障害」という字がついていますから、どうしてもネガティブに捉えられがちです。しかし、個性と捉えれば、ある分野が抜群に伸びる可能性がある、そう勇気づけられる一例ですね。
二次障害を防ぐことが一番大事
トットちゃんはトモエ学園と巡り合えて、とても幸せな小学校時代を送ることができました。しかし、現実には、トモエ学園のような学校はそう多くありません。そのとき注意すべきなのは二次障害です。
二次障害とは、本来の障害である発達障害によって失敗経験が重なるために、子どもが自己否定感を募らせ、抑うつ傾向を高めてしまうことです。多動性、注意欠陥によって叱られることが繰り返されると、「僕は当たり前のことができない人間なんだ」「私はとても悪い子なんだ」という思いを重ねがちです。結果、何事にも自信のない人間になってしまう可能性があります。
二次障害を防止するために、両親をはじめ教師など周りの大人がサポートする必要があります。では、ADHDの子が自己肯定感を保つには、どんな対応が必要となるのでしょうか。
具体的、肯定的な指示で本人に安心感を与える
ADHDの子は、えてして抽象的な指示が苦手だといわれています。例えば「静かにして」と言われたとき、他の子は黙っていても小声でずっとしゃべっていたりします。そんなとき、「静かにしてって言ったでしょ!」などと怒られると、本人は混乱してしまうのです。
指示は具体的に、そして肯定的なものに変えましょう。「静かにして」ではなく、「先生が話している間は、しゃべらないで椅子に座っていましょう」という指示であれば、ADHDの子も理解して指示を守ることができます。さらに、肯定的な表現を使うことも大事です。「歩き回らないで」と言うのではなく「椅子に座りましょう」と言えば、柔らかく伝わります。
成功体験を確保して自己肯定感を育てる
規律を重んじる学校という場では、浮いてしまうことがあるかもしれないADHDの子ども。しかし好奇心が旺盛でユニークな感受性を持っいて、人と積極的にかかわろうとするなどの傾向があることも知られています。そんな愛されキャラの部分は、思い切り褒めてあげると良いようです。
また、具体的な指示を与え続けることができれば、忘れ物を減らしたり、少しずつ落ち着いた行動ができるようになります。そんなときにも当たり前と受け止めずに褒めていくことで、成功体験が積み重なっていきます。失敗を減らし、成功を増やしていくことは、自己肯定感を高めていきます。
価値観が固定化している現代特有の障害ともいえる
「どうしてうちの子が発達障害を持ってしまったのだろう」と、親は嘆くかもしれません。でも、最近はADHDの子が増えたといわれますが、それは価値観が固定化した現代特有の現象であることも指摘されています。テレビやネットで「普通とはこういうこと」という姿が人々の頭にインプットされ、その通りにはふるまえない人が目立つようになってしまっただけだという説もあるのです。
「あなたのおじいちゃんはユニークな人だった」など、周りの高齢者が若いころに強烈な個性を持っていたことを話に聞かされたことはありませんか。昔は、かなり強烈な個性の人でもそれほど問題視されず、周囲からも普通に受け止められていました。おおらかな過去の時代から比べると、現代は随分とかけ離れた価値観で生きているとも言えるでしょう。
参考:『子どもの育ちを支える発達心理学』朝倉書店 p.129
『危機を生きる』ナカニシヤ出版 p.51