コロナウイルスの猛威による影響は、広範囲に及んでいます。その一つが家庭内の暴力です。国連なども警戒を促すDVや子どもへの虐待について、都市封鎖などによる外出制限が行われている海外の状況などを参考にお伝えしたいと思います。
- パンデミックでDV・児童虐待が増える3つの理由
- 3月末には首相に要望書も
パンデミックでDV・児童虐待が増える3つの理由
日本では、それほど大きな問題として報じられていないようですが、外出制限が行われている海外では、「配偶者や恋人など親密な関係にある、又はあった者から振るわれる暴力」であるDVや児童虐待の増加が社会問題となっています。
国連の発表によれば、3月17日の都市封鎖後、フランス国内の家庭内暴力は30%増加しています。スペインでは封鎖から2週間で家庭内暴力の緊急電話が18%増。また、カナダ、ドイツ、スペイン、イギリス、米国の各国で避難シェルターの利用が増えているそうです。またNBCの報道によれば、全米では警察などが扱った家庭内の暴力事件は封鎖数週間で、最大35%も増えているのです。
外出制限はすでに家庭内暴力に悩まされている人達を追い詰める結果となっているようです。まず、その理由から説明していきましょう。
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①加害者のいる自宅に居続けるしかない
外出を制限されて自宅に居るしかないのに、そこに加害者が居続けるという状況が最悪なのは説明するまでもないでしょう。学校や職場などが逃げ場になっていた被害者にとって、自宅待機ほど恐ろしいものはありません。
②孤立してしまう
保育園・幼稚園・学校や職場などは、被害者の逃げ場にもなるだけではなく、ときに緊急事態の発見の場ともなってきました。しかし自宅から出られないことで、被害者のSOSが外部に届きにくくなっています。
さらに加害者が自宅で監視し続けることから、被害者が行政などに相談できないという問題も起きています。実際、前述の国連の報告によれば、都市封鎖後のイタリアでは、暴力に関する相談の電話が55%も減っているのです。また、たとえ相談できる状況になったとしても、海外では行政機関や医療機関が新型コロナウイルス対策に追われ、家庭内棒暴力に対応できないといった事例も起きているようです。
さらに実家などに逃げたいと思っても、高齢の親への感染を考えると訪ねることもできないといった報道もありました。
③ストレスがたまっている
新型コロナウイルスによって、経済的にも不安が強く、自宅から出られないストレスがたまるなど、多くの人が攻撃的になっています。そのためもともと暴力的な傾向のあった人は、感情を爆発する可能性が高くなっています。
『子ども虐待』(西澤哲 著/講談社)は、次のように書いています。
DV加害者の支配性の背後には、「自分の人生を自分の力でコントロールできないという強い無力感があるのではないか」
こうしたバックグラウンドを持つ人にとって、事態をコントロールできない「コロナ禍」は、通常以上にイライラする状況でしょう。そのため家庭内の暴力も、より激しくものになってしまう可能性があるのです。
すでに海外ではウイルスで脅されたといった事例も報道されています。避難できる場所のない外に放り出すと言われたり、感染の疑いがある友人を自宅に呼んで被害者を脅すといった行為もあるようです(もちろん加害者本人にも感染の危険性があるのですが……)。
日本でもマスクを売っていないことに怒り、ウイルスに感染していると叫んで逮捕された人がいましたが、海外では家庭内でウイルスを脅しに使う人が出てきているのです。
3月末には首相に要望書も
非常事態宣言が出される前から、専門家の間では家庭内暴力の増加が懸念されていました。3月30日には、特定非営利活動法人 全国女性シェルターネットの北仲千里代表が、新型コロナウイルス下でのDVや児童虐待防止の要望書を首相などに渡しています。
そこには被害者の保護期間の延長などとともに、自治体の相談中止によってすでにDVが悪化いることや、感染が怖くて相談窓口に来られないといった現状が書かれています。さらに、
「経済的困窮に陥る過程での暴力、虐待の増加が予想される」
といった将来の懸念も示されていました。
今後、行政機関などがコロナウイルス対策に追わる中で、DVや児童虐待を救うことが今より難しくなるかもしれません。そうした中で、どのような対策があるのでしょうか?
厚生労働省は児童虐待中心ですが、相談窓口や関連知識を以下のホームページにまとめています。
また、配偶者からの暴力に悩んでいることを、どこに相談すればよいかわからない人のためには、内閣府男女共同参画局のDV相談ナビ(0570-0-55210)などもあります。
ただ、なかなか助けの窓口が見つからない状況であれば、オーストラリアの報道機関が促しているように、「警察に電話をかけて命を守ってもらう」というのも、一つの方法かもしれません。
そこまで状況が切迫していないけれど、最近、子どもにイライラをぶつけてしまっていると感じている方のためには、渡邉直・千葉県市川児童相談所所長が考案した、子どもにイラついたときの対処法をご紹介したいと思います。
子どもが宿題をせずにテレビを見続けていることに、怒りを感じてしまったときのシチュエーションで書かれています。
落ち着く | 深呼吸などをして |
話せる状況をつくり | 待つ |
子どもに近づいて穏やかに静かな環境で | 環境づくり |
「テレビを見たいのはわかるよ。」 | 子ども気持ちに理解を示す |
「でも、まずは宿題をしてほしいんだ」 | 代わりの行動を提示する |
「わかった?」 | 約束 |
「じゃあ学校から帰ってきたらまず何する?」 | 反復・確認 |
「ありがとう、じゃあ、今から宿題やって。 宿題終わったらテレビ見ていいからね」 | 褒める |
もちろん子育てではいつも冷静に対処などできないでしょう。しかし、ちょっと自分がイライラしていると感じたら、参考にしてみてください。
パンデミックは通常の災害と違い、人を分断させることが恐ろしいとこれまでも書いてきました。その結果生じた「孤立化」は社会的弱者に悪影響を及ぼします。こうした「分断」と闘い、状況を悪化させないことも感染症対策の一環なのではないでしょうか。
心理学的な知識を使って活躍するカウンセラーの活動に興味のある方は、こちらをご覧ください。
参考:『子ども虐待』(西澤哲 著/講談社)/「非暴力コミュニケーションパッケージ『機中八策』(渡邉直 著/『発達』ミネルヴァ出版)/「Domestic Violence Is on the Rise With Coronavirus Lockdown. The Responses Are Missing the Point.」(『The Intercept』Natasha Lennard)/「COVID-19 and Ending Violence Against Women and Girls」(UN WOMEN)/As Cities Around the World Go on Lockdown, Victims of Domestic Violence Look for a Way Out」(『TIME』Mélissa Godin)/「Domestic violence during the time of corona」(『IPS』Arpeeta Shams Mizan)
「働く人の心ラボ」を運営する日本産業カウンセラー協会では、新型コロナウイルス感染症に関連して不安やストレスにどう対処していくか、産業カウンセラーによるコラムを配信しています。こちらからご覧ください。※産業カウンセラーは、心理的手法を用いて、働く人やそのご家族の心の健康(メンタルヘルス、HSP等)・キャリア開発・職場環境改善等を支援する専門家です。