命令すれば部下は動いてくれる。そんな時代は、もう終わりました。今、必要になっているのは部下の気持ちを考え、コミュニケーションを取る能力です。そんな能力を獲得するヒントを紹介します。
- 相談者の本当の訴えは?
- 遠回しの訴えを受けとめられないとピンチに
- 話を聴けるようになるための4つのポイント
相談者の本当の訴えは?
部下の言葉を額面通り受け取ってはいけないケースがあるのを知っていますか?言葉の裏側に隠れた思いをしっかり汲み取る重要性について、『パワハラ解決と管理者研修ドリル』(経営書院)の事例から考えてみましょう。
「では、質問です。部下の一人がこんな相談をもちかけてきたとします。
『課長、K係長のやり方にはもうついていけないんです。退職も考えています。』
このような相談内容の場合、本当の相談内容はどういったことだと思いますか?」
相談者は直属の上司である係長のやり方に不満を抱き、さらに上の課長に相談しに来たという図式です。 このときに最もショッキングな言葉、「退職」に目が行き過ぎると全体を見誤ります。部下は、会社を辞めたいと思っているのではなく、K係長のやり方についていけないと訴えているのです。つまりK係長のやり方をどうするのかを話し合わなくてはいけません。
『パワハラ解決と管理者研修ドリル』には、次のように解説されています。
「部下の方は決して既に退職を決めているわけではありません。でも『退職』という言葉を出すということは、それくらい困っているんだということを課長にわかってほしいという想いが込められています」
逆に言えば、相談された課長の対応次第では、本当に退職してしまうという最悪のシナリオも想定されます。しかも、このK係長のパワハラで部下が相談に来たケースであれば、相談者が退職した後、K係長のパワハラでさらに別の部下もが退職してしまうリスクも抱えることになるのです。
遠回しの訴えを受けとめられないとピンチに
しかも実際の職場では、こうした直接的な訴えがくること自体珍しいかもしれません。本当の問題であるK係長の話ではなく、プロジェクトの進め方など、やや遠回りな相談が来るかもしれないのです。そうなると部下が本当の問題を話してくれるまで、じっくりと話を聴く必要が出てきます。
それはとても細い糸で重石を引っ張るようなもの。少しでも急いでしまえば糸は切れてしまいますし、相談者の望まない対応であれば相談者自身が糸を切ってしまうでしょう。
そうした相談の「糸」が切れてしまった後に退職願が出されると、部下に再考を促すことは難しいケースも出てきます。「課長も話を聴いてくれない!」といった想いは、会社との距離をさらにあけてしまうからです。
話を聴けるようになるための4つのポイント
では、こうした部下の相談にのる際に大事なことは何でしょうか?
それは「素直に聴く」ことです。
「えっ、そんなこと」と思うかもしれませんが、これが意外に難しいのです。「できている」と思った方は、妻や夫、子ども、親などの家族や恋人に、自分が相手の話を聴いているのかたずねてみるといいでしょう。
にっこり笑って「いつも話を聴いてくれてありがとう」と言ってくれるケースは、意外に少ないかもしれません。
聴くための技術は、じつは専門的な勉強が必要となるものですが、最低限やってはいけないポイント4つを書いておきましょう。
①話の腰を折らない
「ちょっと待って。それは前提が違うんじゃないのか!」などと発言すれば、相手は話す気持ちを失ってしまいます。自分とは意見が違うなと思っても、まず話を聴くところから始めなければいけません。
②質問攻めにする
詳細を聴こうと質問攻めにしてしまうケースは少なくありません。不明確な部分を明らかにしたくなることもあるでしょう。しかし相談者が話したいのは事柄ではなく、当人の気持ちであるケースが多いものです。事実ばかりに着目して質問を繰り返せば、せっかく開きかけた心の扉がしまってしまいます。
③途中で意見する
すべてを聴く前に意見すれば、相談者の心は離れてしまいがちです。逆の立場で考えてみてください。追い詰められて相談しているのに、途中で話をさえぎられ「それは、こうするべきじゃないか!」と言われたら、相談する気を失ってしまうでしょう。
④注意する
もちろん多くのトラブルは、双方に原因があるケースが多いでしょう。しかし苦しんでいる気持ちを受け止めてもらえずに、いきなり注意されたらどんな気持ちになるでしょう。注意をすること自体、悪いことはありませんが、とにかく相手の話を最後まで聴くことが最も重要だと肝に銘じてください。 こうした人の話を聴くための専門知識やスキルは、産業カウンセラーの養成講座で学ぶことができます。興味がわいた方は、以下をクリックしてみてください。