吉本興業の芸人が反社会的勢力の会合に参加したとして、計13人が謹慎処分となりました。その後の報道などから、ウソの危険性について心理学的に読み解いてみます。
- 「闇営業」が問題なの?
- 反社会的勢力とのつながりは完全に絶てる?
- 人はウソを嫌う
- ウソをつかれた側はどうする?
「闇営業」が問題なの?
大きな騒動となっている吉本興業の芸人による反社会的勢力の闇営業問題ですが、詐欺グループの会合に参加した若手芸人は早期復帰の可能性が高いとの報道も出ています。
そもそもこの騒動は、何が一番の問題なのかが当初はわかりにくい部分もありました。
まず「闇営業」という会社を通さない仕事のあり方について、問題があると言われています。
会社側からするとタレントがギャラをいくらもらっているのかが見えないから「闇」なのであって、タレント側からすると「直営業」なのです。タレントにとっては副業的な感覚だったのかもしれません。
売れるまではアルバイトなどで食いつながざるを得ない若手芸人にとっては、こうした「闇営業」の収入は貴重な生活資金であったのではないでしょうか。
反社会的勢力とのつながりは完全に絶てる?
では、反社会的勢力からお金をもらっていたという点はどうなのでしょう。これはコンプライアンス強化を進めてきた会社側が問題視していることは間違いありません。一般企業間の契約でも、反社会的勢力の排除を意図した「反社条項」が契約書に入っていることも当たり前になっているのですから。
ただ、現実には反社会的勢力かどうかを完全に見分けるのは容易ではありません。
最近では、「NEWSポストセブン」がタピオカドリンク店舗の経営が反社会的勢力の資金源になっていると報じました。利益の出やすいビジネス構造だったので、いち早く参入したようです。
また反社会勢力が、ビジネススピードの速いIT業界のベンチャー企業に、白紙委任状を出すことを条件に融資している実態を、NHKが放送しています。こうなると事実上、その会社は反社会的勢力のものになりますが、実際の経営陣には「反社」に繋がる人がいないといった状況にもなります。
このように、反社会的勢力かどうかを見極めるのが簡単ではない側面もあり、つながりを持たないためにも厳重なチェックが必要となっているのです。
人はウソを嫌う
では、この騒動でもう1つのポイントは、何なのでしょうか?
それは雨上がり決死隊の宮迫博之氏やロンドンブーツ1号2号の田村亮氏のように、ウソをついたかどうかです。お金はもらってないというコメントから、さして日にちを経ないで高額のギャラを公表することになり、ワイドショーなどでも「ウソは論外」といった評価となりました。
人はウソを嫌います。
特に意図的に信頼を裏切られた場合、信頼を寄せていた自分を否定されたように感じてしまうこともあるようです。
アメリカの社会心理学者マクガイヤーは、「接種理論」という面白い心理を実験で証明しています。それは「ペニシリンは人類に多くの益をもたらした」という話への賛否を問う実験でした。
この話のプラスとマイナスの両方の意見を知って賛成した人は、後になって反対意見と反証実験の結果を知っても賛成を続けました。ところが先にプラスの意見だけを知って賛成した人は、後から反対意見を知らされると急激に反対へと意見を変えたのです。
この実験から説得をする場合、相手に先にマイナス情報を伝えておけば、病気の予防接種と同じように、その後に知るマイナス情報への「抵抗力」を高めることになるというのです。逆に言えば、「マイナス情報を言わない」というウソに対して、人は激しく反応しがちだということでしょう。
そもそも人は、実際の真偽に関わらず物事を真実と判断する傾向を持っています。ウソ研究の第一人者である村井潤一郎・文京学院大学教授は、「社会心理学における嘘研究─現状と展望、嘘に対する雑感」で次のように語っています。
「(人は)真実バイアス(truth bias)を有することが知られているが、そうしたバイアスがあるからこそ毎日の生活を適応的に送ることができるわけであって、(ウソを見破ることの)低い正答率はある意味では当然の帰結とも言える。 人間はバイアスから逃れられない」
そして村井教授は、相手をウソつきだと思ってしまうと、真実もウソ臭く見えてしまうようになるという人の性質も、この論文で説明しています。
つまりマイナスの情報が出ると分かっていてウソをつくのは、心理学的にも最悪の決断だということです。特に今回のように「相手が反社会的勢力かどうかを知っていたのか」といった、当人の発言しか事実を確かめようがないケースでは、1つのウソによって、すべてが怪しく見えてしまいます。
組織の不祥事などでも、何度も証明されていることですが、問題が起きた場合はウソをつかないというのが、事態を悪化させない最良の方法といえそうです。
ウソをつかれた側はどうする?
ここまではウソをつく側の問題です。しかしビジネスの現場では、じつはウソをつかれた側の対処も大きなポイントになります。
大城太氏は「華僑直伝ずるゆる処世術」という連載で、「大切な人に『ウソをつかせない』3つの作戦」というタイトルの文章で、
「ウソを暴くのではなく、訂正することによって、今後の良い関係や改善につながるようになります」
と書いています。
じつはウソの心理学研究でも、事実誤認によって起こるウソや、口で真実を告げていても態度によって相手を間違った方向に誘導するウソなど、ウソにも多様な種類があることがわかっています。ビジネスではウソをつかれた怒りを、そのままあらわにするのではなく、ウソの種類も考えて冷静に判断する必要がありそうです。
参考:
『マンガでわかる心理学入門』(渋谷昌三 著/池田書店)