効率化の波に押され、新人を教育する時間が取れないと思っている人もいるかもしれません。でも、もしかすると新人を教育することで、自分の仕事のスキルが上がるかもしれませんよ。
- もう新人を教育する余裕はない!?
- 研究者としての能力がアップ!
- スモールステップも忘れずに
もう新人を教育する余裕はない!?
就職・転職・進学情報の提供や人材派遣などを行うマイナビが実施したアンケート調査「2018年 マイナビ企業人材ニーズ調査」によれば、「正社員(新卒採用)」「正社員(中途採用)」「契約社員・嘱託社員」「パート・アルバイト」「派遣社員」のうち、前年と比較して採用ニーズが最も高くなったのは中途採用の正社員でした。
その大きな理由の一つは「慢性的な人手不足」ですが、もう一つは「専門能力や技術を持つ人材の獲得」でした。新人を育てている時間も労力もないという状況が、こうしたアンケート調査からも伝わってくるようです。
実際、社会人向け学習動画サービスを運営している「スクー」の実施したアンケート調査によれば、96.2%の企業が業務を通して部下の指導を行う「OJT(On-The-Job Training)」研修の運用に課題を感じているそうです。その理由のトップは48.1%を占めた「多忙によりOJTが不十分」であり、46.2%の「社内に指導できる社員が少ない/いない」が続きます(複数回答可)。
かなり以前から企業に、新人を教育する余力が失われていると言われていましたが、いよいよ対処できなくなってきたということなのかもしれません。
研究者としての能力がアップ!
しかし新人教育は、本業にとって負担をかけるだけのものなのでしょうか?
バージニア大学のフェルドン助教らが2011年に『サイエンス』誌に掲載した論文は、そうした傾向に一石を投じるかも。
実験に参加したのは、修士課程の学生たちです。この学生たちを、自分の実験だけに専念するグループと先生と学生の間に入って実験などのサポートを行う「ティーチング・アシスタント」と自分の実験を並行して行う2つのグループに分けたのです。その後、両グループの学生の研究者としての能力を比較しました。
結果は次のようなものでした。
「検討可能な仮説を立てる能力や実験をデザインする能力の評価は、研究だけをやっている群よりも研究に加えて教職をやった群のほうでより高くなったのである。よって、研究者になるなら教育もやるほうが伸びるかもしれないという結論が導ける」(『脳がシビれる心理学』妹尾武治 著/実業之日本社)
記憶の定着のためには、人に教えるといいというのは広く知られたことです。しかし「研究者としての能力」といった創造的な能力も、教えることがプラスに働くというのは大きな発見といえるでしょう。
スモールステップも忘れずに
教育で能力がアップした「検討可能な仮説を立てる能力」や「実験をデザインする能力」は、研究だけに必要な能力とは言えないでしょう。同様の能力をビジネスの現場に置き換えれば、仮説を立てて行動を決めたり、会社の「資源」を利用して仕事の進め方をデザインする能力といった感じでしょうか。
決まりきった仕事だけをこなすのではなく、より創造的に仕事に取り組みイノベーションを起こすことが期待されている近年の労働環境では、こうした能力のアップは大きなプラスではないでしょうか。
教育は部下のためだけではなく、自分のためにもなりそうですね。
とはいえ注意したいのは、時間がないからといって一気に教えようと焦らないことは重要です。
心理学者のスキナーが提唱した教育原理の1つに「スモールステップ」があります。これは段階を踏んで少しずつ教えていくことの効果を示したものです。
小さく区切れば理解しやすいのはもちろんですが、教えられる人のモチベーションを維持しやすいという側面もあります。自身の成長を確認しながら進んでいけるので達成感を得やすいのだそうです。
また、教えている側も新人の理解できてないポイントをつかみやすいというメリットもあります。
一気に教えてしまい、うまくできなくてモチベーションの下がった新人に改めて教えながら理解できないポイントを探るぐらいなら、最初から少しずつ教えた方が効率的かもしれません。
日々の仕事に追われながら、教育もするのは簡単ではないかもしれません。ただ、それが自分の将来に役立つと感じることができれば、少しは心持ちが変わってくるのかもしれません。