お客様に商品を買ってもらうため、あるいは経営者が従業員の求心力を高めるためなど、企業が物語を効果的に使うことが増えてきました。近年注目されている「ストーリーテリング」について紹介しましょう。
- ストーリーがPRを生む
- 相手の感情に訴える
- 自慢話になってない?
- 正解に没頭しすぎるのはNG
ストーリーがPRを生む
まちおこしの現場では、観光の目玉や特産物を宣伝するために、その歴史的な背景を調べることがよくありました。ただ美味しいと宣伝するのではなく、例えば源氏と平家の戦いにまつわる食べ物だというだけで、多くの人が食べてみたいと思ってくれるからなのです。
メディアに商品を取り上げてもらうように仕掛けるPRでも、物語は大きな力を発揮します。多くの記者は商売の道具になるような記事を書きたくないと思っていますが(それは広告なので)、人々に伝えたいストーリーが商品の裏側にある時は別だからです。
例えば、長崎県松浦市が「アジフライの聖地」と宣言して話題になったことがありましたが、ただアジフライが市が推しているだけでは記事にしにくいものです。ところが市役所職員が、全国の物産展などで実際にアジをあげまくっているというストーリーならば、報道する価値があると記者は判断します。
ここでも問題になるのは物語です。
相手の感情に訴える
物語を使ったマーケティング戦略は、「ストーリーテリング」と呼ばれます。印象的な体験談などを使って、経営者が組織改革のための求心力を高めるために使われるケースも多くなっているそうです。
物語が注目されているのは、数字や抽象的な単語を羅列するよりも記憶に残り、何より相手の感情に訴えるからです。深い共感を得やすいことも知られています。
こうした物語の心理的に効果については、米国などでも研究が行われてきました。ペンシルベニア州立大学医学部では、医学生の患者さんの背景を聞いて、対応がどのように変わるのかを実験しました。その結果、同情的なストーリーを説明された後だと、大幅に対応が変わったと報告されています。
自慢話になってない?
こうした物語の効果が着目される中で、企業に関連するストーリーは量産されています。しかし効果を発揮するものは、多くはありません。
成功の一つのポイントは、「受け手側」が面白いと感じられるのかどうかです。よくある失費のケースは、「送り手側」が伝えたいことを発信しているケースでしょう。しかし、こうした話が「受け手側」の心をとらえるのが難しいことは、通常のコミュニケーションで考えれば当たり前のことだと感じるはずです。
自分のすごさや能力の高さを、やたら語り掛けてくる人を、みなさんはどう思いますか? 「自慢話は嫌だ」と感じてしまうケースも少なくないでしょう。それよりも自分の友人に話したくなるような面白い話を聴きたいと思いませんか?
マーケティングに物語を活用するのであれば、「受け手側」の琴線に触れるのかどうか真剣に考える必要があるでしょう。
正解に没頭しすぎるのはNG
ただ、ビジネスの現場で実際に語られる物語は、小説のようなストーリーが必要なわけではありません。元世界銀行プログラムディレクターのステファン・デニングは、そのあたりのことを「巧みに考え抜かれた物語には気をつけろ」と表現しています。
物語の背景が一気に浮かび上がるような詳細な背景は、小説としては有効でも、ビジネスの現場では懐疑的に取られてしまうことも多いからです。むしろディテールは最小限に抑えて、受け手の立場を忘れないようにすることが大事だと、ステファン・デニングは書いています。
映画を見るように、その物語の世界に没頭してしまうと実際の行動が生み出さなくなってしまうからだそうです。
私がみんなに考えてほしかったのは、「CDCがザンビアの医療関係者の役に立てるのであれば、なぜ世界銀行がそれをできないのか」(中略)といったことだ。聞き手が、医療関係者やその患者を中心とした話に引き込まれると、このような問題意識をみずから抱き、これを答えるための気力が削がれかねない。いいかえれば、ザンビアばあかりに興味をしめされても困るのである。(『コミュニケーションの教科書』ハーバードビジネスレビュー編集部/ダイヤモンド社)
「物語」を使い方はさまざまなパターンがあります。期待する効果によっても、物語のタイプが変わってきます。例えばリーダーが部下たちの行動を引き出すために有効な物語は、次のような物語だそうです。
現実に起こった出来事に基づき、関連性が高いと考えられる最近の事例が望ましい。聞き手がそれとわかる主人公が一人いて、もちろん変革が部分的にでも成功裏に実行されるというハッピーエンドがよい。
物語を効果的に使うためには、自分に合ったパターンを調べることも一つの方法のようです。
コミュニケーションに興味のある方はこちらをご覧ください。