新型コロナで注目の集まる「リスクコミュニケーション」ってなに?

新型コロナウイルスの感染拡大防止が本格化する中で、企業内でもリスクに対する話し合いが行われることも少ないないでしょう。そんなときに知っておきたい「リスクコミュニケーション」関連の情報について、簡単に説明していきます。

  • リスクにどう対応するのかの話し合いが増えるかも
  • 成功の基準は「理解と信頼」のアップ
  • 効果的な3つのポイント
  • 理屈でアプローチするのではなく感情に寄り添う

リスクにどう対応するのかの話し合いが増えるかも

新型コロナウイルスの感染拡大防止策として、今週末は不要不急の外出を控えるようにといった呼びかけが行われました。感染の鎮静化には、まだ時間が必要といった報道もあります。こうした状況の中、さまざまな企業が「リスク」とどう向き合うのか考えざるを得なくなっています。

少人数のイベントは中止すべきか、対人接客で従業員の安全はどのように守るのか、感染リスクの高い仕事の割り振りをどうするのかなど、さまざまな問題への対応を決定する必要に迫られるかもしれません。もちろん緊急事態となればトップダウンで決めることが多くなりますが、しかし状況をにらみながら関係者で話し合って方向性を決めることもあるでしょう。

そうしたときに知っておきたいのが、リスクコミュニケーションの知識です。

成功の基準は「理解と信頼」のアップ

そもそもリスクコミュニケーションとは、どのようなものでしょうか?

『リスクコミュニケ―ションの現在』(平川秀幸・奈良由美子/一般社団法人 放送大学教育振興会)は、次のように書いてあります。

リスクコミュニケーションは民主的な対話のプロセスであり、そのなかで扱われる内容は、リスクに関する科学的・技術的情報や専門的見解だけではなく、リスク管理のための措置・施策・制度それらの根拠の説明と、これに対する関係者の見解、リスクに対する個人的な意見や感情表明なども含まれている。

少し難しいのですが、具体的な状況を思い浮かべればわかりやすくなると思います。

例えば、危険物質を出すと疑われている工場の職員と不安に駆られた地域住民、危険物質の専門家の話し合いを想像してみてください。科学的な根拠だけを並べ立てられても住民は納得しないので、その対策を工場の責任者が説明し、さらに地域住民の不安なども話し合われています。

そして最も重要なポイントは、

「リスクコミュニケーションが成功したかどうかは、関係者間の理解と信頼のレベルが向上したかどうかで評価される」

ことなのです。

つまり経営陣や従業員、仕入先など、価値観や立場の異なる関係者(ステークホルダー)が集まってリスクへの対処を話し合う場合も、理解と信頼が増したかどうかが成功のポイントになるというわけです。

効果的な3つのポイント

さて、では効果的なリスクコミュニケーションのポイントは、どのようなものでしょうか?

『「感染パニック」を防げ!~リスク・コミュニケーション入門』(岩田健太郎 著/光文社)があげる3つポイントを紹介しましょう。

誰が聞き手なのか
状況はどうなっているのか
なんのためにやっているのか

特に「なんのためにやっているのか」を意識しないと、状況の説明だけに終わってしまうケースがあるそうです。どんなゴールを目指して話し合っているのかを、しっかり意識し、聞き手の持つ知識に合わせて説明し話し合いましょう。

理屈でアプローチするのではなく感情に寄り添う

また、リスクコミュニケーションでは話し合いを行えば行うほど、互いの立場の違いを認識することになり、理論的に優位に立つと相手との溝が深まってしまうケースがあります。

そうした場合に役立つのが、バースエイシブ・コミュニケーションです。これは説得的なコミュニケーションで、相手の価値感や感情を理解し、尊重する気持ちを持ちつつ、相手の行動を変えるような別視点の情報を提供する方法です。

例えば、ワクチンに高いリスクを感じている人に、いくら安全だと医学的な根拠をしめしても、相手の感情はおさまりません。

「いま、このワクチンをお子さんに接種しないと、将来、海外留学や海外勤務の時にいろいろ難しくなるということもあるらしいですよ」という話をすると、保護者の態度が変わることがあります」(『リスクコミュニケーションの現場と実践』宇於崎裕美 著/経営書院)

このポイントは、相手の感じているリスクを論理的にアプローチするのではなく、まったく別の観点から説得しようとしていることです。さまざまなリスクに対する恐怖心は、理屈を超えて存在します。だからこそ

「重要なのはまず、相手にいかに共感するか、相手の感情にどれだけ歩み寄るか、相手の感情に働きかけるか、です」(『リスクコミュニケーションの現場と実践』宇於崎裕美 著/経営書院)

実際にリスクコミュニケーションを実施するための手順や流れに関する話もあるのですが、今回は、リスクを前にコミュニケーションを取るのに役立ちそうな情報をピックアップしてお伝えしました。

参考:『リスクコミュニケーションの現場と実践』(宇於崎裕美 著/経営書院)/『「感染パニック」を防げ!~リスク・コミュニケーション入門』(岩田健太郎 著/光文社)/『リスクコミュニケ―ションの現在』(平川秀幸・奈良由美子/一般社団法人 放送大学教育振興会)

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