新型コロナウイルスが猛威をふるうなか、出社しないで仕事をするテレワークが急速に広がっています。しかしテレワークに向かない職種も少なくありません。そこで会社で働くグループのリーダーが、何に気を付ければいいのかをまとめてみました。
①感染拡大によるスタッフの負荷を考える
まずリーダーが確認すべきことは、感染症の流行によって日常業務以外の仕事が増えているかどうかでしょう。SARS流行時の医療従事者への心理調査では、感染症の患者が入院することで、呼吸しづらいマスクや動きづらい防護服を装着し徹底的な消毒が行われるなど、日常業務に加えて多くの時間が感染症対策に割かれ、体力的にも精神的にもきつかったと報告されています。
先日、ウイルスより怒りをぶつけてくる人が怖いといったドラッグストア店員のツイッターが話題になりましたが、さまざまな業種で通常業務以上のストレスにさらされている人がいることでしょう。こうした現場の状況を把握して仕事の進捗を考えることで、部下たちのストレスを多少とも抑えることができるかもしれません。
②スタッフを守るために最善を尽くす
新型インフルエンザの患者を受け入れた病院で働いている人への心理調査では、仕事を続けることへのためらいを抑え、モチベーションを高く保てるポイントとして、国や地方自治体、病院に守られているという意識があげられていました。もちろん感染症の最前線の病院スタッフと、一般的な職場で働いるスタッフでは危機意識は異なります。しかし混んだ電車を使って通勤し、多くの人と話をしているようなスタッフの感じるストレス軽減のために、会社が動いていると感じられることはスタッフの心にプラスに働くでしょう。
マスクの配布やアルコール消毒の徹底、スタッフが感染したときの対処方法の確認など、安心して働ける場づくりに向けて努力することは、リーダー自身のストレス軽減にもつながるはずです。
③目標を定めスタッフを公平に扱う
SARSの医療従事者の心理を調査した論文によれば、従業員が働きやすい環境には次の3点が重要だそうです。
1.リーダーが従業員の視点を考慮し、自分の偏見を抑制して部下を公平に扱うこと
2.意思決定の手順の公平性
3.患者とスタッフの両方の利益に役立つ組織目標
公平性が大きな問題となるのは、感染へのリスクが同じ病院内でも大きく違うからです。さすがに一般企業では医療機関ほどリスクの違いはないでしょうが、なんとなく怖いと感じてしまう仕事と安全だと感じる仕事はあるかもしれません。そうした業務の割り振りについて、意思決定の手順まで含めて公平に扱うことが、いわゆる「日常」と異なる状況下の仕事では重要なようです。
3の「患者とスタッフの両方の利益」については、「お客様とスタッフの両方の利益」と考えてもいいでしょう。医療従事者の場合、感染症の拡大に専門家として関与していることがモチベーションにつながっていたとの報告もあります。従業員の安全を守りつつ、非常時に多くの人の生活を支えているという思いをスタッフが抱ければ、医療機関と同じようにパンデミックが終息した後も組織にプラスの影響を与える可能性があるようです。
④専門家として話を聴く
SARSの感染拡大後に、組織がパンデミックの痛手から立ち直るポイントの一つであげているのが、「マグネットホスピタルト」という概念です。直訳すれば「磁石病院」ですが、これは「医師・患者・看護師を磁石のように引き付けて離さない魅力ある病院」と定義されるものです。
「マグネットホスピタル」の重要なポイントは、専門性をしっかり発揮できる組織であるという点です。看護師ならば、次のようなモデルケースがあると増野園惠・兵庫県立大学教授は書いています。
・患者一人一人によりよいケアを提供するように努めることが大切にされる組織文化
・患者に関する密な情報交換と協働
・役割モデルとなる看護師の存在
スタッフ誰もが専門性を発揮でき、なおかつ専門家同士が情報交換できる職場といったイメージでしょうか。
また、別の論文では、「すべての看護師の意見が取り入れられ尊重される」のがポイントの一つとして書かれていました。意思決定の場面において、それぞれの専門家が意見を出し合える職場環境は、感染症によるストレスの増大にも力を発揮しそうです。
各スタッフの専門性を認識して話を聴くといったことも、心がけてみるといいかもしれませんね。
⑤家族の安全を考える
SARSの感染拡大では、子どもや病気の親を持つ医療関係者のストレスが増大しました。自分を介して子どもや病気の親にうつしてしまったらどうしようという葛藤です。また保育園などの休みになれば、その時間の育児をどうするのかという問題も発生します。
パンデミックに際しての医療関係者の心理調査では、家族の安全性が非常に重要とのこと。もちろん企業にできることは限られてきますが、少なくともスタッフの不安感にリーダーが耳を傾け、仕事を続ける上での工夫について話し合うことはできるかもしれません。リスクの高い仕事の割り振りなども含めて、組織と個人の両方が納得できるポイントを探そうと努力することも一つの方法でしょう。
心理学に興味のある方はこちらをご覧ください。
参考:「2009年新型インフルエンザ流行の医療従事者に与えた心理的影響」(今井必生 他)/「大規模感染症(新型インフルエンザA:H1N1)への対応が医療従事者に与える心理的影響」(川添文子 他)/「Applying the Lessons of SARS to Pandemic Influenza」(Robert G. Maunder 他)/「Factors associated with motivation and hesitation to work among health professionals during a public crisis: a cross sectional study of hospital workers in Japan during the pandemic (H1N1) 2009」(Hisei Imai 他)/「看護におけるマグネティズムの概念分析」(増野園惠)