感染症の流行で起きる「ストレス」を軽減するための3つのヒント

新型コロナウイルスによる影響で、不安やストレスを抱えている人も多いのではないでしょうか。不安やストレスを少しでも和らげられたらとの思いで、海外のパンデミックや災害時のストレスの軽減や解消の方法について調べてみました。今回の状況とは異なるかもしれませんが、冷静に対処するうえで参考にできる点があるように思います。

  • 感染症が孤独を募らせる
  • SARS流行時に北京市民がとった行動
  • サリン事件でのストレス対策とは
  • 心理的応急処置も効果的

感染症が孤独を募らせる

日ごろ、カラオケや居酒屋などでストレスを解消している人も少なくないでしょう。しかし、今の状況ではカラオケや飲み会もままなりません。

日本の感染症の歴史を紐解けば、結核や赤痢、コレラなどと闘ってきたことがわかります。また2009年の新型インフルエンザの流行時も、医療関係者を中心に緊迫した状況になっています。しかし感染症による不安を生まれて初めて感じているという人もかなり多いかもしれません。

そこで海外でのパンデミックや災害時のストレス対策から、効果的だと思われるものを紹介していきたいと思います。

SARS流行時に北京市民がとった行動

【ヒント①】 電話をする

感染症の拡大は、どんな心理状態を生み出すのかについて、2003年のSARS流行時に医療従事者の心理を研究した論文には、SARSの蔓延が孤独を招いたと書いてあります。というのも調査対象が医療従事者だったこともあり、感染者と接した人達が自分の家族や恋人にうつすのを恐れて、物理的に距離を置いたからです。

このような状況は新型コロナウイルスでも同じではないでしょうか。

会社の同僚に会えなかったり、休校になって友達に会えなかったりする人も多いでしょう。また感染を危惧して高齢者との接触を控えている人などもいるかもしれません。

こうした状況への対応について、2003年のSARS発生時に北京市民の心理状態を電話調査した「感染症流行時の心理反応に関する研究2」(高橋良博、高橋浩子)がヒントをくれました。

この論文によれば、当時の北京市民は恐怖心や不安、緊張を感じていた人が多かったそうです。そして普段より電話を使う頻度が増えた答えた人が、40%にものぼったと書かれています。一般的に電話より自宅を訪問することが多い北京市民が、訪ねる代わりに電話したのでは、と分析しています。

日本ではメールやラインなどで連絡を取り合うことが増え、中国よりも電話で話すことに抵抗を感じる人が多いかもしれません。しかしストレスが高まっている状況では、孤独感が募ります。メールやラインではなく、電話をしてみるのもいいかもしれません。

サリン事件でのストレス対策とは

【ヒント②】 「運動」「趣味」「話し合い」の時間を設けてみる

1995年の「特異災害」で活動した消防隊員のストレス調査についても紹介しておきましょう。

1995年は地下鉄サリン事件が起きた年です。この事件では神経ガス・サリンが地下鉄の車内で散布され、死者を含む多数の被害者が出ました。後にオウム真理教がサリンをまいたとわかるのですが、事件当時、現場で救出活動に当った消防隊員などは「無色・無臭で何ら危険性が感じ取れない状況にありながら、時間とともに傷者が増えていく不安」「不明な状況のなかで活動する不安」「後遺症に対する不安」と闘いながら作業したことが、この調査で明らかになっています。

またこの調査では、「普段のストレス解消策がそのまま衝撃的な災害に起因するストレス解消にも役立つことが裏付けられた」として、「運動」「趣味」「話し合い」が特に有効だったと結論づけています。

地下鉄サリン事件の救助と感染症の拡大を、まったく同じように扱うことはできないかもしれません。しかし目に見えない不安や身体不調への不安といった点では、参考にできる点があるのではないでしょうか。

さらに次のような記述もあります。

「くつろいだ雰囲気の中で災害や災害活動について話し合うことは、カウンセリング機能をも併せ持っていることを再認識する必要がある」

少し落ち着かないなと感じたときには、不安な出来事を話し合うことも心の平安につながるのかもしれません。

心理的応急処置も効果的

【ヒント③】 PFA的な態度で相手の話を聴いてみる

2003年当時、SARSの感染者を治療に当った医療従事者に、どんな対策が効果的だったのか調査した論文には、「心理的応急処置」(サイコロジカル・ファーストエイド:PFA)が有効だったと書かれています。

PFAは、災害などの危機的な状況下で、苦しんでいる人や助けが必要かもしれない人への人道的、支持的な対応をまとめたものです。WHO等の国際機関が開発したもので、特徴の一つは専門家が行うカウンセリングと異なり、PFAの講習を受けた人であれば、長期の訓練をしなくても災害援助などで活用できることです。

PFAがSARSに対応した医療従事者に効果的だった理由について、次のように解説しています。

・他者への支援を学ぶことで医療従事者自身のレジリエンスを高める可能性があること
・ストレスを感じている人を弱者として見なさなくなること
・心理的な苦痛を軽減する方法を学ぶことができること

もちろんSARSと最前線で闘った人と一般人の心理をまったく同じに論じるわけにはいかないでしょう。しかし新型コロナウイルスでストレスを感じている人への対処の仕方などを学ぶことは、心理的にプラスに働くかもしれません。

とはいえPFA全体をここで紹介するのはさすがに難しいので、支援のときに「すべきこと」と「してはいけないこと」を紹介しましょう。

【すべきこと】
・信頼されるように、誠実に接しましょう
・自分の意思決定を行う権利を尊重しましょう
・あなた自身の偏見や先入観を自覚して、それにとらわれないようにしましょう
・たとえ今は支援を断ったとしても、あとになってから支援を受けることもできることをはっきりと伝えましょう
・時と場合に応じて、プライバシーを尊重し、聞いた話については秘密を守りましょう
・相手の文化、年齢、性別を考えて、それにふさわしい行いをしましょう

【してはならないこと】
・支援という立場を悪用してはなりません
・支援の見返りに金銭や特別扱いを求めてはなりません
・できない約束をしたり、誤った情報を伝えてはなりません
・自分にできることを大げさに言ってはなりません
・支援を押しつけたり、相手の心に踏み込んだり、でしゃばることをしてはなりません
・無理に話をさせてはなりません聞いたことを別の人に話してはなりません
・相手の行動や感情から、「こういう人だ」と決めつけてはなりません

こうして並べると、自分がどんな態度で話を聴いた方がいいのか、また自分が話すときにどんな態度で聴いてほしいのかがわかるのではないでしょうか。

こうした知識を持ってお互いに会話をすることができれば、ストレスをより軽減することにつながるかもしれません。

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