新型コロナウイルスによって日常生活にも影響が出ています。それにともない人々の不安も高まっているようです。そこで心理的な不安の根本原因について調べてみました。
- 知らないから不安が高まる
- 正しい知識は感染後の心にも影響する
- 「パンデミックは心理現象」と専門家は語る
知らないから不安が高まる
国立感染症研究所元室長で『人類と感染症の歴史』の著作もある加藤茂孝氏は、感染症が引き起こす不安を、次のように分析しています。
心理的には原因が可視的でなく得体の知れないことに起因する不安にこそあった」(「人は得体の知れないものに怯える」『モダンメディア』)
人類は見えない恐怖に怯えながら感染症と闘い続けてきた歴史を背負っており、未知のウイルスに強い不安を抱いてしまうのは仕方ないのかもしれません。だからこそ未知のウイルスが解析され、ウイルス対策の情報が出回ると社会の不安も沈静化していきます。
加藤茂孝氏は2003年のSARSの混乱が収まっていった様子について、次のように記しています。
「2003年のSARSの大混乱は、病原ウイルスがコロナウイルスであることが見つかり、 感染経路が明らかになり、 さらに、 患者・ 病原体との接触の機会を減らせば、 感染拡大は防げることが分かってからその不安感は減少していった。 この間、わずかに数カ月であった」
正しい知識は感染後の心にも影響する
知らないことが不安感を高めるのだとすれば、正しい情報の取得は不安解消につながるでしょう。そんな仮説を後押しするような論文を、久留米大学の三橋睦子教授が発表しています。
三橋教授が調査したのは315人。実験に参加した人の内訳は、以下の通りでした。
・集団感染症の体験と知識がある看護師 51人
・集団感染症の体験があり知識のない大学生 53人
・集団感染症の体験はなく知識はある看護師 50人
・集団感染症の経験はないが、感染症に対する知識を若干持っている看護大学生 50人
・感染症の知識も体験もない大学生と社会人 111人
この調査によって、知識のなかった大学生と社会人グループの方が、感染症に対する恐怖が強いとわかったのです。
さらに体験の有無から恐怖の度合いを比べたところ、全般的に恐怖の度合いが高かったのは集団感染(赤痢)を体験した大学生グループ。全般的に低かったのが同じく集団感染(赤痢)を体験した看護師グループだったことがわかったのです。
同じように集団感染を体験したのに、このような違いが出た理由について、三橋教授は知識による状況の捉え方の違いだと分析しています。
多くの人が病院に運ばれた状況を、知識のない学生はこの世の終わりのように見ていたのに、医学的な知識のある看護師は問題に対処している現場と映っていたようなのです。
つまり感染症の正しい知識を持つことは、感染後の心の安定にもつながるというのです。
「パンデミックは心理現象」と専門家は語る
そもそも人は理性よりも感情で判断を下す傾向があるのです。そのため未知なものを、実際以上に危険だと判断してしまうのだそうです。
『Psychology of Pandemics』の著者であるスティーブン・テイラー氏は、「パンデミックは本質的に心理的な現象です」と語っています。実際、過去の感染症の流行では、人々の不安が刺激され、さまざまなデマや人種差別が起こりました。
感情優先の判断を抑えて、客観的な事実から冷静に判断できるかどうかが重要な問題なのではないでしょうか。
心理学に興味のある方はこちらをご覧ください。
参考:「人類と感染症の闘い ―『得体の知れないものへの怯え』から『知れて安心』へ― 第1回『人は得体の知れないものに怯える』」(加藤茂孝 著/『モダンメディア』)/「感染症リスク認知地図の試作と有用情報摘出の可能性」(三橋睦子)/「心理学者に聞いた、新型コロナウイルスの不安への対処法」(『BUSINESS INSIDER PRIME』)/「Why outbreaks like coronavirus drive xenophobia and racism ? and what we can do about it」(『The Hill』)/「感染流行時の心理反応に関する研究2」(高橋浩子、高橋良博)