日本の「kawaii」に世界から注目が集まるようになって、随分と時間が経ちました。すでに市場規模もかなりの額となっています。では、「カワイイ」とは、いったいどんなイメージなのでしょうか?
- 300億円の市場規模も!
- 不完全で未成熟なもの
- ロボットと「カワイイ」
300億円の市場規模も!
女子高生たちがあらゆるものを「カワイイ」と表現するようになった当時、その言葉の貧困さを嘆く論調がメディアにはありました。しかし「カワイイ」はその後どんどん拡大していきます。
2015年8月には原宿に「カワイイ モンスター カフェ」がオープン。ここは、いまだに外国人の人気観光スポットとなっていますし、カワイイおもちゃを手に入れることができるカプセルトイは2017年には約300億円の市場規模を持っています。また「加熱式たばこ」のシェアは「カワイイ」ケースなどで決まるといった記事も出るほど、いまや「カワイイ」は国内外でビジネスを引っ張る力を持っています。
では、実際のところ「カワイイ」とは、どのようなものを指すのでしょうか? 何となくわかっているけれど、いまさら聞けない「カワイイ」について説明しましょう。
不完全で未成熟なもの
比較文学者の四方田犬彦氏は『「かわいい」論』(ちくま書房)で、「カワイイ」を「不完全・未成熟であり、小さい」、そして「グロテスクな要素が含まれている」と説明しています。
この未成熟の部分を拡大し、徹底的に成熟を拒否したのが「ロリータ・ファッション」や「ゴスロリ・ファッション」(ゴシック・アンド・ロリータ・ファッション)であり、装飾過多な要素も「カワイイ」の大きな特徴になっています。
じつは日本のアニメなども、極端に目と頭が大きいなどといったキャラクター設定により、未成熟さを持つようにデザインされています。それどころかアニメのダンスなども、モーションキャプチャーで作ったスムーズなアニメを、わざわざ動きがぎこちなくなるように変えて放送していたというのです。こうした動きの不完全さも、「カワイイ」の大きな特徴の1つなのです。
海外のアニメでは、わざわざ動きを劣化させることはないので、これは日本のアニメの特徴といえそうです。
ロボットと「カワイイ」
こうした「カワイイ」の概念は、将来的にはロボットの製作に関わってくるかもしれないと、考えさせる論文もあります。尚絅大学の畠山真一准教授が書いた「カワイイ概念と『不気味の谷』現象について」です。
そもそも「不気味の谷」とは、ロボットの見かけを人に近づけていくと、あるところまでは親和感が高まるのに、一定の範囲を超えるといきなり「不気味の谷」と呼ばれるゾーンに突入して気持ち悪くなるというのです。
人間と区別がハッキリつくぐらいのロボットはかわいく感じるのに、似せすぎると不気味に感じることは、多くの人が知っているのではないでしょうか。この原因については諸説ありますが、人に似すぎたロボットに死を感じたり、未知なものとしての違和感を覚えるのでは、という説もあります。
いずれにしても、人間と見分けがつかなくなるまで似せすぎると、人はこの不気味さを感じ続けてしまうので、人間に似せたロボットを作る際には問題になりそうです。
しかし顔や動きを不完全な形にデフォルメする「カワイイ」ロボットなら、「不気味な谷」に入る直前の高い親和性を得られるかもしれません。
日本人はもともとロボットを人と同じように扱う感覚を持っており、自動車工場にある産業用ロボットですらアイドルの名前がついていたと話題になったことがあります。こうした意識に加えて、「カワイイ」外見を好む感性を持つ日本人は、ロボットの導入に他国より抵抗が少ないかもしれません。
つまり、ものによっては、「カワイイ」がさらに市場規模を拡大するかもしれないのです。若い人だけの感性と決め付けないほうがいいかもしれませんね。