「責任の大きい仕事をやってみたいけれど、失敗したらヘコんじゃうしな……」としり込みしているあなた。ヘコんでしまったら、どのくらいその感情を引きずると思いますか?人は早く立ち直れると証明した心理学実験を紹介します。
- 人にはネガティブ感情から早く回復しようとする力が備わっている
- ギルバートの不採用通知実験
- 「正直ムリかも?」と思う仕事にも、積極的に飛び込んで!
人にはネガティブ感情から早く回復しようとする力が備わっている
嫌な出来事を体験したとき、私たちはショックを受けますが、心理学では、人にはそのショックを癒す力があらかじめ備わっているとされています。つまり、ネガティブな感情を体験しても、一定期間のうちに立ち直ることができるのです。
しかし、ネガティブ感情に対するこの免疫力を、人は過小評価する傾向があります。つまり、「嫌なことがあったら、自分はこのくらいの期間は立ち直れないだろうな」と考えていても、実際にはもっとずっと早く立ち直ることが可能だということです。
本当でしょうか。人は心のダメージからの回復力を的確に予測することができないと推論を立て、検討を行った実験について見てみましょう。
ギルバートの不採用通知実験
ハーバード大学の心理学者、ダニエル・ギルバート教授は、高額アルバイトの面接を装い、次のような実験を行いました。不採用通知を受け取る前の実験参加者に「もし面接を受けて不採用だったら、あなたはどのくらいがっかりすると思いますか?」「不採用通知を受けた10分後の気分は、どうなっていると思いますか?」と問います。そして、実際に不採用通知を受け取った後の気分と、10分後の気分について尋ねたのです。
すると、実験参加者の「気分の予測」はことごとく外れました。不採用通知をもらった直後でさえ、予測していたよりもずっと心のダメージは少なく、またその10分後には、ダメージを引きずっていると予測していたにもかかわらず、ほとんどの参加者がショックを感じなくなっていました。
このように、実際にショックを受ける度合いは小さく、また立ち直りも早いにもかかわらず、私たちはなぜ「失敗したらかなり落ち込んでしまうだろうな。引きずるだろうな」と考え、恐れてしまうのでしょうか。答えは出ていませんが、一つの可能性として、自己防衛システムが働いていると考えられます。
例えば、「失敗してもすぐに立ち直れる」とわかっていれば、「失敗しないように努力しよう」という気持ちが薄まってしまうでしょう。こうした楽観が続くと、致命的な失敗をおかしやすくなるかもしれません。「失敗したらかなり落ち込む」と思い込むことで、失敗を避けているといえるのです。実際には、そう大きなダメージを受けないにもかかわらず、です。
「正直ムリかも?」と思う仕事にも、積極的に飛び込んで!
「失敗を恐れるな」という言葉がありますが、本当に、失敗は恐れなくてもよいものなのかもしれません。実際に失敗しても、自分が恐れているほどのダメージを受けることはないためです。そう考えれば、度胸がなくてチャレンジすることができなかった仕事にも、取り組んでみようと思えるのではないでしょうか。
「いや、自分はけっこう引きずるタイプだけどな……」と思う人は、もしかしたら自分の心にブレーキをかけてしまっているのかも。本当は気分が回復傾向にあるにもかかわらず、「次の失敗」や「これ以上、心が傷つくこと」から身を守っていると考えられています。
自分が成長するために、困難な仕事にチャレンジしたいと考えたら、迷わず飛び込んで。成功しても、失敗しても、それが自身の経験であることには変わりありません。ステップアップのために、こうつぶやきましょう。「私は、私が思うよりも、ずっと打たれ強い!」
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参考:『社会心理学』(池田謙一ほか 著/有斐閣)