「サイコパス」を知っていますか?魅力的な外面と、冷酷で人を人とも思わない態度。関わった者が不幸になるとも言われる気質について、脳科学者である中野信子さんの著作から、その特徴と現代社会での暮らし方について学んでみましょう。
- 共感しにくいサイコパス
- サイコパスなのか注意したいポイント
共感しにくいサイコパス
ありえないようなウソをつき、そのウソがバレても平然としている。また犯罪などで捕まっても反省の色を見せない。それなのに外見は魅力的で社交性も十分。面白くて一緒に居たいと思わせる人なのに、関わった人は皆騙されて、不幸になってしまう。そして色恋沙汰のトラブルも多いようです。日本語では「精神病質」と訳されてきたサイコパスについて中野信子さんは
サイコパスには、その実態を指し示す適切な訳語がいまだにありません。また、今日の精神医学において世界標準とされている「精神障害の診断と統計マニュアル」の最新版(DMS5)にはサイコパスと言う記述がありません。精神医学ではサイコパスというカテゴリーではなく。「反社会的パーソナリティ障害」という診断基準になります。そのため、誤ったイメージやぼんやりとした印象が流布しているのは、仕方がない面もあります。(『サイコパス』中野信子/文藝春秋)
と指摘しています。
ところが、脳科学の劇的な進歩により、サイコパスの正体が徐々にわかってきたようで
脳内の器質のうち、他者に対する共感性や「痛み」を認識する部分の働きが、一般人とサイコパスとされる人々では大きく違うことが明らかになってきました。また、サイコパスは必ずしも冷酷で残虐な殺人犯ばかりではないことも明らかになっています。大企業のCEOや弁護士、外科医といった、大胆な決断をしなければならない職種の人々にサイコパスが多いといった研究結果もあります。『サイコパス』中野信子/文藝春秋)
そんなサイコパスが、常に注目を集める理由の一つが、犯罪者に多いという特性でしょう。カナダの犯罪心理学者であるロバート・ヘアは、
「刑務所にいつ受刑者の平均20%がサイコパスであり、重大犯罪の半数以上が彼らによるものだ」(『サイコパス』中野信子/文藝春秋)
という統計を明らかにしているそうです。
しかも米国が負担するサイコパス関連の国家費用は年間49兆円にもなり、うつ病対策の予算より多いそうです。
中野さんによれば、サイコパスの特徴は、共感性が低いこと。飢餓に苦しむ人などの悲惨な画像を見せても、感情を司る脳の部位が活性化しないそうです。その一方で、相手の目つきや表情から状況を把握する能力には長けているのだとか。
人間の目あたりだけの写真を見せて、その人の感情を読み解かせるという課題を与えると、一般人の正答率は30%ぐらいであるのに対し、サイコパスの正答率はなんと70%にもなります。つまり他人が「悲しんでいる」「苦しんでいる」目つきを見て、サイコパスは「自分自身が共感する」ことはないけれども、他人がそのような心理状況に置かれているということを読み取ることは得意なのです。
サイコパスなのか注意したいポイント
いくら魅力的でも、使えるときだけ利用するサイコパスには積極的に関わるのは注意が必要でしょう。特に
「困っている人に手をさしのべることを好む献身的な人は、サイコパスにとってはつけ込みやすく、利用しやすいのです」(『サイコパス』中野信子/文藝春秋)
と中野さんは指摘しています。
問題はどうやってサイコパスを見抜くのかという点でしょう。罪を犯しているわけでもないサイコパスを見極めるためには、どんな場で「活躍」しているのかを知る必要があるでしょう。
社会的地位が高い人にはサイコパスが多いという研究結果を知れば、その思いは強まるでしょう。中野先生の著作では、現実社会で彼らがどのように生き抜いているのかを説明しています。その内容を書き抜いてみましょう。(『サイコパス』中野信子/文藝春秋)
① プレゼン能力だけ異常に高い人
相手の喜ぶことを行って巧みに心理を操ったり、逆に相手の弱みを見つけて揺さぶりをかけることの得意なサイコパスは、プレゼン能力は非常に高いそうです。一方で経営管理やチームでの作業は苦手だそうです。
② 経歴や肩書きが華麗すぎる人
人を騙したりする道具として履歴や肩書きが有効だと知るサイコパスは、華麗な履歴や肩書きを作ることがあるそうです。「なんか嫌な感じがするけれど、素晴らしい経歴だし……」といった考え方は危険です。
③ ママカーストのボスやブラック企業の経営者
コミュニティーに所属する人たちの恐怖や不安をコントロールして、組織を思いのままに動かすことが得意なサイコパスは、ママカーストやブラック企業のトップとして君臨することがあるそうです。
④ 炎上ブロガー
カナダのマニトバ大学の研究チームは、サイコパスはネット上での「荒らし」行為をする傾向があるそうです。こうしたネットの発言は真に受けないことが重要だそうです。
⑤ サークルクラッシャー
サークルで複数の男性と肉体的、あるいは精神的に関係を持ち、それが原因でトラブルを起こし、サークルが崩壊してしまう「サークルクラッシャー」。この手のタイプにも、サイコパスが多いそうです。
まだまだサイコパスの研究は途上で、様々な治療に関する研究も行われていますが、現状では
「サイコパスの思考方法やふるまいを本人の意思や努力で後天的に変えていくことが難しい」(『サイコパス』中野信子/文藝春秋)
のが実情のようです。だからといって機械的に排除するという風潮は危険であり、サイコパスと共存していく道を模索する必要があることを、中野さんは示唆しています。そうであるならば、少なくともサイコパスの見分け方ぐらいは知り、警戒しながら付き合っていくことが必要なのかもしれません。
中野信子さんが推奨する心理学の学びに関するインタビュー動画は、こちらからご覧ください。
監修:日本産業カウンセラー協会
参考:『サイコパス』(中野信子/文藝春秋)