人の性格を決めるのは、「氏か育ちか」という論争に決着が付いているわけではありません。ただ、どちらがどれだけ影響するのかはわかってきています。説明していきましょう!
- 性格の約半分は遺伝子で決まる
- 家庭や親は性格に影響を与えない?
- 育児が遺伝子の働きを変える
性格の約半分は遺伝子で決まる
慶応義塾大学の安藤寿康教授は、双子研究の権威として有名な心理学者です。安藤先生によれば、性格の約半分は遺伝子によるものだそうです。
性格を示す理論でも最も知られている理論のビッグ・ファイブセオリーで遺伝子の影響を調べると、以下のような数字になるというのです。ビッグセオリーについて『心理学ビジュアル百科』(越智啓太 著/創元社)を引用しながら遺伝子の影響力について記していきます。
外向性 46%
→「知らない他者や事柄に興味を持って、積極的に新しいことに関われるかどうか」
神経症傾向 46%
→「感情の起伏の激しさ」
誠実性 52%
→「信頼できる人なのか、あてにできる人なのか」
調和性 36%
→「不平や不満をコントロールして人や組織に協力的に振る舞えること」
開放性 52%
→「興味・関心の幅が広い人、言い換えればいろいろな知識や経験を持っていておもしろい人」
この結果をみれば、「調和性」をのぞけば、性格の約半分が遺伝子で決まることがわかると思います。そして残り50%が環境によるものだというのです。
家庭や親は性格に影響を与えない?
でも、多くの人は思うかもしれません。環境の中で大きな要因は親や家庭ではないかと。しかし安藤教授は、「性格は遺伝子で決まるって本当ですか?」という記事の中で、次のように述べています。
「親の影響や家庭の影響(これを共有環境といいます)は先にも述べたようにほとんどみられません。むしろ一卵性のふたごですら一人ひとりに独自な非共有環境が重要なのです。これは状況により時間とともに変わる影響です」
つまり学校で出会う双子それぞれの友達や経験が、個人の性格を決定していくのだそうです。
安藤教授は、別々の親で育てられた兄弟でも遺伝子が同じ一卵性の双子の性格が、同じ両親に育てられた二卵性の双子よりも性格が似ていることを証明しています。
子育てをしている人にとっては、少し残念に感じる結果かもしれませんね。
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育児が遺伝子の働きを変える
ただ、親の存在が遺伝子の発現に影響するという実験もあるので紹介しておきましょう。
まず、知っておいてもらいたいのは、「エピジェネティクス」という聞きなれない遺伝子のシステムです。じつは「遺伝子の配列」が同じでも、環境によって遺伝子が装飾され、その働きが違ってくることがわかっています。
幅広い分野の専門家の講演会TEDで話したマギル大学の遺伝学者モシェ・シーフ教授の話は、この「エピジェネティクス」の影響についてでした。
モシュ教授はネズミを2つのタイプの養母にあてがいました。良くなめる母親とあまりなめない母親です。その結果、遺伝子に関係なく、子ねずみの性格が変わったのです。
またサルをつかった実験では、母親と育ったサルはアルコールにも興味を示すことがなく、性的な攻撃性も強くありませんでした。ところが母親がいなかったサルは、ストレス耐性が弱く、攻撃的でかつアルコール依存の傾向を示したのです。
そして母親のいたサルといないサルでは、「エピジェネティクス」の影響で遺伝子の働きが違っていることがわかったのです。
ここで「氏か育ちか」という疑問は、さらにわからなくなります。
ただ、50%は遺伝子の影響があるにせよ、人の性格も環境によって変えられることだけは間違いないようです。
参考:公益社団法人日本心理学会 心理学ってなんだろう 性格は遺伝で決まるって本当ですか?/NATIONAL GEOGRAPHIC「研究室」に行ってみた。/行動遺伝学・教育心理学安藤寿康/第3回パーソナリティも遺伝で決まる?日本語TED新着/モシェ・シーフ: DNAへ人生初期の経験が刻まれる
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