暴力的なシーンがある番組は、本当に子どもの暴力を助長するのでしょうか。実は、心理実験でそれを確かめた人がいます。興味深い実験をひもといていくと、暴力行為そのものよりも大事なことが見えてきました。
- バンデューラのポポ人形実験
- 暴力行為の後は、きちんと叱ることが大事
- バイキンマンは、いるだけで「悪」……?
バンデューラのポポ人形実験
ちょっと前に、「アンパンマンはアンパンチでバイキンマンを倒すから、子どもは暴力で問題を解決することを学んでしまう」という意見が話題になりました。確かに、アンパンマンはキックやパンチを連発します。でも、それが教育に悪影響を及ぼすというなら、歴代のヒーローは全て暴力的なヤツになってしまいますよね。特撮なんて全てアウトです。
本当のところはどうなのでしょうか?
心理学者のアルバート・バンデューラは、人形を使って次のような実験を行いました。まず、実験群の子どもたちに、大人が人形に暴力をふるっている映像を見せて、その後人形をどう扱うかを観察しました。するとこの実験群の子どもたちは、映像を見なかった実験群の子どもたちよりも明らかに攻撃的な面を見せていました。ここからは、「子どもは暴力を観察学習する」ことが推測されます。
バンデューラは、さらに実験を進展させました。子どもたちを3つの実験群に分け、それぞれ別の映像を見せたのです。1つめの実験群には、大人が人形に暴力をふるった後、別の大人に褒められる映像を見せました。2つめの実験群には、暴力行為の後に叱責される映像を、そして3つめの実験群には、ただ暴力行為だけがある映像を見せました。 すると、映像を見た後の子どもたちに変化が現れました。2つめの実験群、つまり暴力行為の後に叱責される映像を見た子どもたちは、人形に暴力をふるう割合が明らかに減ったのです。ただ、1つめの実験群と3つめの実験群の暴力行為は、ほぼ同程度でした。これは、観察するだけで、行為の強化(褒められる)がなくても学習が成立することを示しています。
暴力行為の後は、きちんと叱ることが大事
もしかしたら、1つめの実験群の子どもたちは、自分たちが規範とするべき大人が人形に暴力をふるう映像を見せられたことで、「これはホメられるべき行為なんだ」と思い込んでしまったのかもしれません。いずれにせよ、暴力をふるった後は叱られるという構図がきちんと出来上がれば、子どもは暴力を振るわなくなるということが推察されます。
また、暴力を叱られることに納得のいかない子どももいるかもしれません。「だって、テレビの中のヒーローは、悪者を倒しても怒られないし、むしろありがたがられているよ」と。そんな子どもには、ヒーローがかっこいいのは暴力をふるうからではないと教えてみてはどうでしょうか。ヒーローは、みんなを助けるからこそかっこいい。暴力はみんなを助ける手段でしかありません。 そして、できれば暴力以外の方法で解決したいのだというところまで伝えられればいいかもしれません。話し合いができれば最高だけれど、相手が効く耳を持たず、人々に危害を加えるため、やむを得ず攻撃しているのだと。もちろん、そんな理屈がわかるまでには、何年かかかるでしょう。
バイキンマンは、いるだけで「悪」……?
「でも、バイキンマンってそんなに悪いヤツじゃないよ」。親戚の子どもが放った言葉です。するとその子の父親が、「いや、バイキンマンはただいるだけで悪なんだよ」と反論していました。確かに、バイキンマンって「黴菌(ばいきん)」です。そこにあるだけで駆除したくなる存在ですね。いわばゴキブリと同格、与える被害を考えればゴキブリ以上に人類の敵と言えるかもしれません。
でも、「ゴキブリ以上に嫌なヤツ」と言いきってしまうと、なんだかバイキンマンがかわいそうな気がしてしまうのは、筆者だけでしょうか。アンパンマンが暴力的に見えてしまうのは、バイキンマンという敵キャラの愛らしい姿も手伝っているとも思えるのです。
参考:『心理学ビジュアル百科』越智啓太編、創元社 p.154