3月12日に逮捕されたピエール瀧容疑者の事件は、メディアでも大きく報じられました。あれだけ活躍している人がどうしてという声も報じられています。そこで薬物依存の心理について考えてみました。
- ミュージシャンとしても俳優としても大活躍
- 依存の原因は薬物そのものだけではない!?
- 孤独が薬を引き寄せる?
- 交友関係が広かったようだけど……
ミュージシャンとしても俳優としても大活躍
3月13日、俳優・ミュージシャンとして活躍するピエール瀧容疑者が麻薬取締法違反の疑いで逮捕されたと、メディアがいっせいに報じました。NHKで放送中の大河ドラマにも出演。さらに出演した映画の公開も控え、所属する「電気グルーヴ」の30周年公演まで控えている中での逮捕でした。
電気グルーブでは「Shangri-La」を大ヒットさせただけではなく、海外でも高い評価を獲得。2000年以降は俳優として映画などを中心に出演し、2013年には報知映画賞助演男優賞まで受賞しています。
いわば音楽と俳優の両方で順調にキャリアを積み上げてきた中での逮捕でした。それに驚く人が多かったのも当然かもしれません。
依存の原因は薬物そのものだけではない!?
ピエール瀧容疑者の逮捕を巡っては、海外のクラブなどでのイベントやライブが多かったことで、薬物に接する機会も多く、それが薬物依存の原因になったのではといった報道も流れました。
確かに薬物に触れるきっかけの多さは、薬物依存を引き起こす可能性を高めるでしょう。「でも、それだけだろうか?」という疑問を考えるきっかけとなる資料があります。
コロンビア大学のカール・ハート教授が書いた『ドラッグと分断社会とアメリカ」』(早川書房)には、ヘロインやクラック・コカインといった薬物の使用と依存について、膨大な科学的資料と貧しい黒人居住地区で育った自身の経験を下に書いています。
本書によれば、米国には薬物常用者が2000万人いて、そのうち依存症の問題に悩まされているのは10~25%。また独身の人より、既婚者の方が薬と縁を切れる可能性が3倍も高いことなどが書かれています。
専門家の公演を公開しているTEDでは、ジャーナリストのジョハン・ハリは、ベトナム戦争に従軍しヘロインを使っていた兵士の95%が厚生施設も必要なく、禁断症状もなく帰国して薬物使用をやめられた、と語っています。しかも、この結果は総合精神医学誌が綿密に調査したものだとのこと。
実際に薬物依存に苦しんでいる人もおり、依存することなく薬を辞められる人がいるとは言え、薬物常用者が2000万人のうち10%~25%もの人が依存を引き起こすような薬物は、触れる機会がない方が社会も健全です。
ただ、薬物依存は薬物だけで起きるのではないのかもしれないという考え方は重要だと思うのです。
孤独が薬を引き寄せる?
では、薬物依存に導く要因は何なのかという疑問のヒントとなるものに、サイモン・フレーザー大学のブルース・アレグサンダー博士の実験があります。
アレグサンダー博士は、薬物依存を引き起こす原因は、狭いカゴで孤独に飼育されるという環境にあるのではと考えました。そこでカゴの200倍の大きさの「ラットパーク」を作り、隠れ場所となるカンなどを置き、ラットの群れを放して薬物入りの水と薬物の入っていない水を置いたのです。また比較対象として通常のワイヤーで作られたカゴにラットを入れて、同じような水を与えました。
結果、独房状態のカゴのラットは、ほぼ100%が薬物を過剰摂取したのに、社会生活を営める環境ではラットには過剰摂取が見られなかったのです。また57日間連続で薬物を与えられたラットでも、「ラットパーク」に過ごすようになれば薬物の入っていない水を選択するようになることもわかりました。
つまり他のラットと遊んだりする時間が薬物を遠ざけ、独房状態の孤独が薬物を引き寄せるのではという研究結果を発表したのです。
交友関係が広かったようだけど……
さて、ここでもう一度、ピエール瀧容疑者の話に戻りましょう。
逮捕後の報道では、彼は20代の頃から薬物を使い続けてきたと供述しているようです。
しかも、3月6日の『東スポWeb』では、薬物使用での逮捕が近い人物としてピエール瀧容疑者をほのめかしています。
彼は、長期間にわたり薬物を使い、逮捕疑惑が一部でささやかれる中でも薬をやめることができなかったということです。
事件後に幅広い交友関係者からコメントが寄せられていますが、本人は意外と「孤独」だったのかもしれません。その「孤独」が薬物を続けさせた一因だとするならば、自分自身でその心の闇と対峙することが依存を防ぐ一つのカギになるのかもしれないと感じました。
『真冬のタンポポ 覚せい剤依存から立ち直る』(双葉社刊)の著者で、薬物依存のリハビリを助ける「日本ダルク」の代表を務める近藤恒夫氏は、薬物依存を「寂しさの痛み」と表現しました。また、そこには疎外感や虚しさであるとも書いています。
また厚生労働省のwebページ「依存症対策」には、「依存症は、『孤独の病気』とも言われています」と説明されており、孤独感や不安や焦りから依存症が始まる場合もあると書いてあります。
いずれにしても有名芸能人が麻薬で捕まった衝撃の余波は、しばらく続きそうです。
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参考
『ドラッグと分断社会とアメリカ」』(カール・ハート 著/早川書房)
『本当の依存症の話をしよう ―ラットパークと薬物戦争―』(スチュアート・マクミラン 著/星和書店)
厚生労働省 依存症対策
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000070789.html