性善説と性悪説、どちらを信じますか?
意地悪な人に出会ったりすると、性善説を信じたくなるかもしれません。何かと世知辛い世の中だからこそ、心理学実験の観点から性善説と性悪説を考えてみましょう。
- 古代中国で生まれた性善説と性悪説
- 赤ちゃんは好きなものを長く見る
- 図形から目玉を取ったらどうなった?
- サイコパスをどう考える
古代中国で生まれた性善説と性悪説
小説や映画には「生まれながらの悪人」が、けっこうな割合で登場していたりもします。現実の世界でも、善意を期待できそうもない人に出会うこともあります。
では、実際のところは、人の本性は悪なのでしょうか?善なのでしょうか?
人間の本性は善であると説く「性善説」は、中国の古代の思想家である孟子が唱えたものです。もともと人は道徳的に生まれたのであり、人が悪を犯すのは、自分の本来の姿を忘れているからだと説きます。
現実には、こんなふうに考えられたらいいなと思う人も多いのではないでしょうか。とはいえ、この孟子の思想は儒教に大きな影響を与えたので、かなりの説得力を持つものといえるでしょう。
一方、人の本性は悪だとする「性悪説」を唱えたのは、孟子とおなじく古代中国の思想家である荀子とされています。ただ、だから手の打ちようがないと説いているわけではありません。人は環境や欲望によって悪に走りがちだから、努力して善を目指すべきと考えたのです。
こうやって改めて性善説と性悪説を並べると、どちらも説得力があるから面白いですね。もちろん性善説や性悪説以外にも、人はニュートラルな状態で生まれて、教育によって善悪が決まるといった考え方もあるでしょう。いずれにしても、実際にどうなのかは、なかなか判断しづらい問題です。
赤ちゃんは好きなものを長く見る
心理学者ハムリンとブルームは、人が生まれながらに持っている判断基準を実験で明らかにしています。
二人が判断材料として使ったのは、乳児の特徴の一つ「好きな方をより長く見る」という反応。例えば、乳児に笑顔と泣き顔を見せると、笑顔をより長く見つめるらしいのです。もしかすると、乳児に接したことのある人は、このような特徴を実感することがあるかもしれませんね。
さて、好きなものを長く見つめるなら、乳児が視線を送る時間さえ測定すれば、どんなものを好むのかをつかむことができます。
ハムリンたちが最初に乳児に見せたのは、擬人化するために目をつけた赤い丸の映像でした。目のついた赤丸が山に登ろうとしているのに、何度も失敗。そこに目がつけられた黄色い三角形が登場して助けるパターン。もう一つは登るのを目玉つきの青い四角が邪魔する映像。
この2つの映像を比べると、邪魔する映像より助けてくれる映像を乳児はより長く見ることがわかったのです。つまり乳児の段階では、少なくとも助ける行為の方が、赤ちゃんのお気に入りだったというわけです。
図形から目玉を取ったらどうなった?
しかし、この研究のこれだけでは終わりません。
次にハムリンたちは映像に図形に付けられた目玉を取って見せたところ、三角形と四角形を見つめる時間は、同じになってしまったのというのです。これは色や図形に反応したのではなく、助けたとか邪魔したとかいう社会的な関係に反応した結果だとのこと。
また目をつけたままで、丸は山を登らず動かない。三角と四角だけが、山を降りたり登ったりしている映像を見せると、邪魔をする映像よりは長く見るけれど、助ける映像よりは見る時間が短いことが判明したのです。
つまり赤ちゃんの好きなものは、社会的な関係でプラスとなる助ける行動が1番。そして社会的な関係にプラスにもマイナスにもならない行動が2 番。邪魔をするという社会的にマイナスの行動は3番になったのでした。
いわば性善説をやや後押しする結果が得られたというわけです。
サイコパスをどう考える
もちろん反論したい人もいるかもしれません。
例えば、近年、注目されているサイコパス。『良心をもたない人たち』(草思社文庫)によれば、生まれつき、良心を持たない人とされています。悪人ではなく、良心を持たないという点に注意が必要ですが、同書によれば米国人の4%がサイコパスだという統計もあるようです。これは25人に1人の確率ともなるので、クラスに1人は良心を解さない人がいるという結論になります!
つまり個人差の傾向性なども考えると性善説と性悪説の軍配は、簡単にはつかないわけですが、大きく考えれば、人は生まれながらに社会的に良いことが好きと言えそうです。
もちろん社会的に良いことが必ずしも善ではなく、ときに悪にもなりうるという懸念もあります。
人は善いことも、悪いことも行う存在なのかもしれません。
相手にも多少とも良心があると考えることで対人ストレスが減るのなら嬉しいのですが……。
参考『脳がシビれる心理学』(妹尾武治 著 実業之日本社),『良心をもたない人たち』(マーサ・スタウト 著 草思社文庫)