「氏より育ち」という言葉もありますが、実際に遺伝子である「氏」は、どれだけ性格形成に関連しているのでしょうか?神経伝達物質による性格傾向について説明します。
- セロトニンが決める3つのタイプ
- ラベル付けで性格も変えられる
- 遺伝子の影響を受けやすいのは「大人」になってから
セロトニンが決める3つのタイプ
性格に関連する脳内物質にセロトニンがあります。もしかしたら聞いたことがあるかもしれませんね。
セロトニンは心のブレーキのような働きをします。セロトニンが作用すればするほど人は慎重になり、将来予測は悲観的となります。一方でセロトニンの影響が弱いタイプの人は、物事に楽観的な傾向を示すのです。
そしてオックスフォード感情神経科学センターのエレーヌ・フォックス教授によれば、このセロトニンの調整にかかわっているのが「セロトニン運搬遺伝子」なのです。
セロトニンの量を増やすことで周囲の状況に鈍感にはなるが、前向きな性格に導くL型。逆にセロトニンの量を減らして周囲の状況に敏感にはなるが、悲観的な性格に導くS型。これらの遺伝子を父と母から1つずつ受け継ぐので、「セロトニン運搬遺伝子」による性格傾向は、次の3つに分かれます。
LL型……とにかく前向き。周りはあまり気にしない!
SS型……周囲のことは敏感に把握するけれど悲観的。
SL型……ちょうど中間的なタイプ。
『心理学ビジュアル百科』(越智啓太 著/創元社)によれば、日本人の66%がSS型だそうです。SS型は、歴史上人口が激変するような困難を経験している地域に多い傾向があるそうです。飢饉ども多く、使うエネルギーを最小にし、余ったエネルギーは、最大限に蓄える「倹約遺伝子」を持つ人が多い日本人にSS型が多いのは、頷ける話でしょう。
「より慎重に行動し、田畑の手入れや管理に過敏になるSS型が相対的に生き残りやすく、人口構成の中で増えていったのかもしれない」と『心理学ビジュアル百科』にも書かれています。
一方、LL型は日本人には3%しかいないとのこと。この数値は世界的にもみても低いようで、米国のようなチャレンジ精神溢れ、開放的な社会とは社会風土が違ってくるのも仕方がないことなのかもしれません。
ラベル付けで性格も変えられる
このセロトニン運搬遺伝子による性格分析は、米軍のマネジメントにも使われていると報じられています。実際、画像を見せたとき、楽しげな画像と怖い画像のどちらに最初に注意を払うのかといった実験では、SS型とSL型の人がネガティブな画像に引きつけられたという結果が出ています。
では、少なくとも悲観主義か楽観主義かは遺伝子で決まるのかというと、事はそんなに簡単ではないのです。というのも脳はラベル付けによって、意識を変更することができるからです。
例えば、SS型が反応しやすい怖い映像である、銃やナイフ、蛇といった映像を見たときに、冷静にリアルなものか写真かを判断すれば、恐怖の感情も発動しなくなります。
絶望的な状況であっても、しっかりと計画を立て、希望を計画の中に見つければ、楽観的な見立ての中で生きていくことも可能なのです。
つまりある種の傾向性を持った遺伝子を持っていても、その傾向に意識的に対峙することで、現実への対処は変わっていくというわけです。その意味では意識的に生きれば、「氏より育ち」だといえそうです。
遺伝子の影響を受けやすいのは「大人」になってから
遺伝子の影響を受けやすいのは、幼少期と大人になってから、どちらが強く出ると思いますか?
なんとなく幼少期のほうが強そうですが、子ども時代はさまざまな制約の中で暮らしているため、大人になってからの方が個性を出せるようになり、より遺伝子の影響を受けやすくなるのだそうです。
年を重ねる中で無意識に自分の好みを優先させ、結果、遺伝子の影響が強い生活を送りがちになるのです。もちろん、その遺伝子の影響を自ら排除していくこともできるところが人間らしさなのでしょう。
参考:『心理学ビジュアル百科』(越智啓太 著/創元社)