学生はもちろん社会人になっても記憶力が必要なときはあるでしょう。どうしても突破したい資格試験など、その典型です。そんなときに役立てたいのが記憶法。「場所法」というメジャーな記憶法と、そのメカニズムをお伝えします。
- イメージして場所と結びつけるだけ
- 場所と記憶には密接な関係が!
- 場所を暗記する細胞が!
- 年齢を重ねても暗記はできる!
イメージして場所と結びつけるだけ
場所法のやり方自体はそんなに難しくありません。
まず、記憶したい固有名詞などをイメージします。
例えば有名な精神科医のフロイトを記憶するなら、「バスタブに入る大きな糸玉」をイメージします。さらに、そのフロイトと交流のあった精神科医ユングを覚えるなら、「湯加減がちょうどよい(good)バスタブ」を想像します。この2つのイメージを、実際の自宅の風呂場と結びつけるのです。
さらに自宅の風呂場に行き、バスタブを見ながら、そのイメージを何度も頭に思い浮かべてみましょう。
すると有名な2人の心理学者を思い出したいときは、記憶の中の風呂場に行けばいいわけです。頭に浮かぶのは、風呂桶に浮かぶ巨大な糸玉と湯船に張られたちょうどいい温度の湯。これで二人の有名な精神科医の名前が思い出せるというわけです。
ポイントは、暗記したいものをイメージし、場所と結びつけることです。
古代ローマ人は、実際の場所ではなく想像上の部屋を作り、そこに記憶したいものを配置する遊びをしていたといわれますが、これこそ場所法の原点といえるものでしょう。
場所と記憶には密接な関係が!
なんでわざわざ場所と結びつけるのかを不思議に思う人もいるでしょう。しかし、脳科学的にも場所と記憶は深い関連性があることがわかっています。
ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンのエレノア・マグワイアの実験によって、1年半以上の勤務経験を持つロンドンのタクシー運転手は、経験年数に応じて、記憶を司る海馬の後ろの部分が大きくなっていることが発見されました。
そもそもロンドンの「ブラックキャブ」と呼ばれる黒塗りのタクシーの認定試験は、タクシー運転手のテストとしては最難関。合格するのに費やす時間は、通常3~4年です。ロンドン中心部にある交差点「チャリング・クロス」を中心に半径6マイル(約10キロ)の中にある道路・公園・建物などの情報をすべて暗記し、さらに目的地までの最短ルートで通る道や交差点の名前まで正確に答えなければいけません。
受験生たちはスクーターに乗って、教本に書いてある道路を走り回り、最新情報を記憶し続けなければ合格できないのです。
こうした難しい試験を乗り越えて、脳にロンドンの詳細な地図を叩き込んだエキスパートが、日々の勤務によって、さらに記憶が強化され、結果的に海馬が大きくなったというわけです。
場所を暗記する細胞が!
2014年ノーベル生理学・医学賞を受賞した、英ロンドン大学ユニバーシティーカレッジのオキーフ博士は、ラットが自分の居る場所を記憶している「場所細胞」を海馬から発見したことで知られています。
ラットを入れる部屋によって、脳細胞の違う場所が反応することから、ラットは自分がどの環境にいるかを場所細胞によって認識していることがわかったのです。いわば場所細胞が地図のような役割を果たし、活動空間を把握できるようになっているのです。
確かに生物が生きるために必要な情報は、場所と結びついています。獲物が獲れやすい場所、塩をなめられるポイント、水場などなど、「どこかで水が飲めたんだけど、場所がどうしても思い出せない」といった記憶では生命を維持することができません。
その意味では場所が暗記と密接に関連することは不思議ではないでしょう。
ただし理化学研究所の実験によれば、マウスが出来事を記憶するときの位置情報はかなり不安定なもので、場所のニオイ、そこで出会った風景や他の生物といった周辺情報とリンクしていることがわかったのです。
年齢を重ねても暗記はできる!
生物の記憶がすべて位置情報とリンクしているのかはわかりませんが、場所とそこで見聞きした情報、気持ちなどが一体となって記憶の保管庫に収納されている可能性は高いようです。
場所法は、その記憶を位置情報から引き出すことで、記憶を再現するという脳科学から見ても理にかなった記憶法といえそうです。
脳科学者の池谷裕二氏の対談によれば、記憶力は必ずしも年齢によって衰えるものではなく、特別な頭脳を持たなくても鍛錬によって能力がアップすることもわかっているそうです。(「記憶力を鍛えるのは入力じゃなくて出力です」
とにかく暗記しなければいけない項目がある人は、場所法にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
ちなみに想像だけで記憶が定着しないと感じたら、実際の場所にイメージのものを置いてみるのも一つの方法です。
例えば、先のほどの例でいえば、ちょうどいい温度のバスタブに毛玉を浮かして風呂に入り、そのときの気持ちや風景などを実際に記憶するのです。場所情報にさまざな情報を加えることで、より鮮明に思い出すことができるでしょう。
参考:心理学ビジュアル百科(越智啓太 著/創元社)