90歳、100歳での往生が増え、70代で現役もあたり前の長寿社会において、悩みの種が記憶力。記憶力が衰える老年期に、働くことなんてできるんだろうか?と考えている人に、はっきり言いましょう。「高齢者は記憶力が低下する」なんて、思い込みですよ!高齢者の脳を解析した実験結果から、記憶力を高めるコツを見出しましょう。
- 「最近、記憶力が悪くなってきたな」と感じている人へ
- 何らかの手掛かりさえあれば、高齢者も若年層と同様に記憶を引き出せる
- インプットも大事だが、アウトプットのほうがはるかに大事?
- 年に関係なく、復習なしでは記憶の定着はない
- 誰だって、興味のないことは覚えられない
- さまざまな工夫で記憶力の維持を!
「最近、記憶力が悪くなってきたな」と感じている人へ
「トシだからか、人の顔や名前が全然思い出されない」と、切なく思っている人はいませんか。しかし、記憶を引き出すためにはコツと努力が必要であり、それは若年層でも同じことです。
あなたは学生のように、今日あったことを復習しているでしょうか。若いころの好奇心そのままに、興味関心を持って物事に当たっているでしょうか。今日あったことを話す相手はいますか?
鍛えるべきなのはあなたの脳そのものではなくて、工夫の仕方や習慣、そしてモチベーションなのかもしれません。数々の脳実験が、それを伝えています。
何らかの手掛かりさえあれば、高齢者も若年層と同様に記憶を引き出せる
記憶を呼び起こすときには、「再生」と「再認」という二つの手続きがあるとされます。再生は、記憶をそのまま、手掛かりなしに思い起こすことを指します。そして再認は、何らかの手掛かりを与えられて思い起こすことを指します。
実は、高齢者にとって再生は苦手でも、再認であれば若年層とそんなに成績が変わらないことがわかっています。心理学者のショーンフィールドとロバートソンは、あらゆる年齢層の実験参加者に24個の単語を提示し、再生と再認を求めました。再生は自由再生として、24個のうち覚えている単語を順番を問わずに挙げてもらい、再認については24個の単語に4つを加え、「この単語は先ほどのリストにあったか否か」を答えさせたのです。
結果、年齢が高くなるにつれて再生テストの成績は悪くなったものの、再認テストの結果はどの年代も変わらないという結論になりました。この実験は、手掛かりさえあれば年齢に関係なく記憶を引き出すことができることを示しています。
考えてみれば、学生時代だって「鳴くよウグイス平安京」などと、語呂合わせで工夫して覚えていましたよね。でも、大人になった今ではそんな語呂合わせを思い出すまでもなく「平安京が造られたのは794年だ」と、スラスラ答えられるでしょう。覚えるまでの苦労を忘れてしまうと、いざ新しいことを覚えようとするときに、工夫をしなくなるのかもしれません。それでは、覚えられないのは当たり前といえるのではないでしょうか。
インプットも大事だが、アウトプットのほうがはるかに大事?
また、ハーバード大学が行った、このような実験結果もあります。学生に40の単語を覚えてもらい、復習法やテスト法を変えて7回の記憶力テストを実施しました。単語はすべてスワヒリ語で、学生らには全く意味が分からない言葉です。よって、手掛かりをもって再認できるような材料はほとんどありません。
すると、繰り返しテストを行うにあたって、以前に間違えた箇所だけをテストする形式にするよりも、全問をテストする形式にしたほうが、成績がはるかに良いことがわかったのです。アウトプットの回数が、記憶に良い効果をもたらすということを検証した実験です。
人間、年を取るとどんなことでも「要領よく、効率よく」できるようになります。しかし、ものを覚えることそのものに限っていえば、回り道をしたほうが良いといえるのかもしれません。「もう、覚えたよ」と思えるようなことも、覚えられないことと同様に復習を繰り返したほうがよいと、この実験は教えてくれます。
年に関係なく、復習なしでは記憶の定着はない
「もうトシだから、覚えたと思うようなことも繰り返し勉強しなければならないのか」と情けなく思う必要はありません。先の実験の参加者は、ハーバード大学の優秀で若い学生たちです。彼らですら、復習なしにはスワヒリ語を完全に覚えることができません。年齢に関係なく、復習なしでは記憶の定着はないのです。
きっとあなたも学生時代、受験のために過去問題を真面目に何度も解いたことでしょう。そのときの気持ちを忘れず、覚えておきたいこと、忘れたくないことは定期的にアウトプットする必要があります。
誰だって、興味のないことは覚えられない
また、きっと経験済みでしょうが、誰でも興味の向かないことはなかなか覚えられません。年齢が上がるにつれ、さまざまなことに興味を持てなくなっている人はいませんか。新しいことに興味をそそられ、何でも覚えたいというモチベーションが高まっているときには、当然のことながらいろいろなことを覚えられます。でも、年齢に限らず、興味が薄いことを覚えるのは至難の業です。
若いころに比べて興味の持てることが減ったという人ほど、自分の忘れっぽさを嘆いているかもしれません。心当たりのある人は、覚えなければならない事柄そのものに興味を持つことから始めましょう。
さまざまな工夫で記憶力の維持を!
「何かと結びつけて覚え、再認を可能にしておく」「復習する」「覚える事柄そのものに興味を持つ」……どれも、若いころであれば何かを覚えるために一生懸命していた工夫です。もしかしたら、一番忘れてしまっているのは、「ものを覚えるための工夫」かもしれませんよ。自分がどんな工夫をしていたかを思い出して、記憶力の維持に努めましょう!
参考:『元気に老いる 実験心理学の立場から』(岡市洋子、二瓶社)