思い込みは、ときに真実となりえます。根拠のないうわさ話がもととなって、結局うわさ通りの未来が作られるのだとしたら、自分が思い描く理想の未来をイメージしていたいものですね。予言の自己成就という心理用語をご存知でしょうか。心理実験を交えながら、この心理バイアスを未来に活かす方法を解説します。
- 考えたことは、意外と現実になるみたいだよ
- 予言の自己成就を示した心理実験
- ポジティブな未来日記を書いてみよう
- 自分自身でメンタルタフネスを育てよう
考えたことは、意外と現実になるみたいだよ
思い込みや噂話が現実を作り出すことを、予言の自己成就といいます。アメリカの社会学者、W・I・トマスに「もし、人がある状況を現実であると考えたのなら、それは結果において現実である」という言葉があります。これはまさに、予言の自己成就を示したものです。
例えば、銀行の取り付け騒ぎ。「どうやら、あの銀行は倒産するらしい」という誤った噂話を真に受けた人々が、次々とその銀行との取引をやめてしまえば、結果的にその銀行は倒産することになります。また、「どうせこの面接は落ちるだろう」と思いながら採用面接を受けたならば、覇気もやる気も感じられない面接になってしまい、不採用という結果になってしまうかもしれません。
予言の自己成就は「思っていたような出来事がたまにある」という漠然とした現象にとどまらず、かなり的中する確率の高い社会現象として、心理学の世界では注目を集めてきました。「行動的確証の過程」とも呼ばれるこの現象を実証した心理実験に、数多くの研究者が取り組んでいます。
予言の自己成就を示した心理実験
予言の自己成就を示した有名な心理実験に、心理学者のスナイダーらによるものがあります。学生が男女ペアとなって、顔の見えない状態でチャットを行う実験です。実験前には、男性のほうにあらかじめ女性の顔写真が渡されます。男性の半数には、事前の調査で「美人」と評価された女性の写真が、またもう半数には、容姿についての評価が低かった女性の写真が手渡されました。
チャットはおよそ10分間で終わり、のちに女性側の発言部分だけを、複数の評定者に聴いてもらいました。すると、評定者らは女性の容姿についての情報を何も得ていないにもかかわらず、あらかじめ「美人」と評価された女性のほうを「社交的でユーモアのセンスがあり、総じて魅力的である」と判断したのです。
おそらく、相手を美人と思い込んだ男性側が、チャットで彼女と話をするなかで、女性が魅力的であることを示唆するような発言をしたり、女性の社交的な面やユーモアを引き出す話題を選んだりしていたのではないでしょうか。「相手はとても魅力的な女性である」という男性の思い込みが、本当にその女性を魅力あふれる人物に仕立て上げたと考えられます。
ポジティブな未来日記を書いてみよう
予言の自己成就を効果的に使えれば、人は誰でも自分の未来の予言者になることができます。そこでまず、ポジティブな未来日記を書いてみましょう。昇進、結婚、出産、独立など、理想の未来は人によってさまざまですよね。できる限り具体的に、成就する日にちまで指定して日記を書けば、自分への思い込みが強くなりますよ。
また、他人の力を借りてみるのも手かもしれません。先の実験のように、他人の思い込みの力によって自分が高みに引き上げられる可能性があるなら、自分を実際以上に能力の高い人物と思ってもらうことで良い結果につながることもありそうです。
謙虚な人は、「ハッタリ?それとも詐欺かしら?」なんて心配してしまうかもしれません。しかし、仕事や恋愛で良い結果を得たいなら、理想の自分を少しオーバーに表現しておいて、努力をしてみることも一つの方法です。本当に理想の自分になれるかもしれないのです。そして、予言の自己成就をうまく使えれば、それは可能です。
自分自身でメンタルタフネスを育てよう
大事な試験やプロジェクトを間近に控えていて、「失敗してしまいそう……」とばかり考えている人は要注意!予言の自己成就効果で、本当に失敗してしまうかもしれません。自分にとって都合の悪いことが続くと、ストレスにさらされメンタルタフネスの低下を招くことになるかもしれません。なるべく、合格して喜んだり、プロジェクトで成功し称賛を浴びるようなポジティブなイメージを思い浮かべるようにしましょう。
メンタルタフネスは、自分自身で育て上げるもの。予言の自己成就による成功体験を積み重ねることが自信につながり、自然と明るい未来を思い描けるようになりますよ!
参考:『社会心理学』池田謙一ほか、有斐閣