そもそも人は自分を常識的だと思いたい生き物だということを、ご存じでしょうか。「そんなことないって!何歳になっても勉強だよ」と一笑にふす人ほど、危ないかもしれませんよ。多くの人が陥るフォールス・コンセンサス効果を知って、仕事も身近な人間関係もスムーズに!
- いきなり質問!お風呂では、頭と身体、どっちから洗う?
- 自分の意見が多数派だと思い込む、フォールス・コンセンサス効果
- 「ですよね」は強力なセールス用語!
- 親しい人と接するうえでは「余計なおせっかい」に要注意
- 人間関係に行き詰まりを感じたら、いったん立ち止まって考えてみて
いきなり質問!お風呂では、頭と身体、どっちから洗う?
ここで質問です。お風呂では、頭と身体、どちらから洗いますか?「え、頭でしょう?」でも、「身体に決まってるでしょう?」でも、どちらでもいいんです。自分が選択したほうを、果たしてどれほどの人が支持すると考えているでしょうか。
おそらく、どちらの回答であっても、「ほとんどの人が、自分と同じように頭から(身体から)洗うに決まっている」と思う人が大半でしょう。もちろん、実際には、どちらから洗うのが正しいといった正解はありません。しかし、多くの人が「頭から(身体から)洗うのが常識でしょ?」と思い込みがちなのは、なぜなのでしょうか。
自分の意見が多数派だと思い込む、フォールス・コンセンサス効果
心理学では、自分の意見は多数派であると思い込む心理現象を「フォールス・コンセンサス効果」と呼びます。日本語では「偽の合意効果」と呼ばれ、日常的に起こっている錯覚の一つです。
フォールス・コンセンサス効果を実証した実験としては、アメリカの心理学者、ロスが行った調査が有名です。ロスは、学生たちに「胸と背中に広告を貼り付けたサンドイッチマンになって、キャンパス中を歩き回ってくれないか」と依頼しました。そして、OKしてくれた学生と、断った学生に、次のような質問をしたのです。
「別の学生に同じような依頼をしたら、その人は依頼を受けてくれると思う?」
結果、OKしてくれた学生の6割が「OKすると思う」と答えました。一方で、断った学生らの7割が「断ると思う」と答えました。おそらく、学生たちの頭の中には「自分と同じように」OK(またはお断り)するだろう、という意識が働いたのです。
以上のように、フォールス・コンセンサス効果は実験でも認められた、誰にでもある心理現象です。単にその人がものを知らないとか、料簡が狭いわけではありません。もちろん、あなたにだってその傾向が認められます。
「ですよね」は強力なセールス用語!
フォールス・コンセンサス効果は、ビジネス上の戦略に広く使われています。例えば、インターネット上のレビュー。「欲しい」と思った商品が高評価だと、やはり皆がいいと思える品物なのだと納得し、安心して買える気持ちになりませんか。自分がものを選ぶうえで多数派であるという感覚に、あと一押しが加わることで、購買意欲がぐっと高まるのです。
また、店頭販売では「ですよね」を連発する店員がよく見られます。「これ、いいね」「品質もよさそうだし」「値段も手ごろだし」といったお客の反応に、「ですよね」で通すのです。この、あいまいな承認ともいえる態度が、フォールス・コンセンサス効果を高めるのに有効であると考えられます。お客は、自分の価値観が一般的にも通じるものだという自信を強くして購買に至ります。
親しい人と接するうえでは「余計なおせっかい」に要注意
フォールス・コンセンサス効果は、特に親しい人と接するときに強く出やすいといわれています。「このお菓子、すごくおいしい!○○さんにも食べさせたい」「かわいいキーホルダー!孫へのお土産に買っていってあげよう」などと思うときがありませんか。近しい他人が、自分と同じように「おいしい」「かわいい」と感じるはずだと思い込んでしまうことからくる購買行動です。
でも、実はそれは、「余計なおせっかい」かもしれません。身内や親しい友人であっても、基本的には違う人間。好みだって、「常識」と思っていることだって、全然違う可能性があります。「似合うと思ったから」「こういうの、好きだと思って」買ってあげることが多い人は、ちょっとだけ気をつけてみましょう。
人間関係に行き詰まりを感じたら、いったん立ち止まって考えてみて
自分が常識だと思っていることが身内に通じないと、否定されたように感じケンカ腰になってしまうときがあります。「どうして、こんなことがわからないの?」「○○に決まってる」「これが常識でしょ」という言葉が口から出てしまいがちな人は、自分がフォールス・コンセンサス効果の罠にはまっているのかもしれません、いったん立ち止まって考えてみましょう。
いろんな考え方や行動があるのだと、相手を尊重する心を持って。心理的な錯覚に負けず、身近な人と友好な関係を築きましょう!
参考:『社会心理学』池田謙一ほか、有斐閣