ネット上での過激なバッシングは、どうして起きるのでしょうか?バッシングから自殺が起きるなど痛ましい事件も起こり、心理学的な分析も進んでいますので、紹介してみましょう。
- バッシングで「自分が役に立った」と勘違い
- 炎上の中心は4万人中7人
- 保身から被害者ぶる
バッシングで「自分が役に立った」と勘違い
ネット上のバッシングについては、総務省の有識者会議で発信者の身元を特定してしやすくする法改正を中間報告案としてまとめるなど、社会的にも対策が講じられつつあります。
一方、多くの人にとって、どうして過激なバッシングにエネルギーを注ぐ人がいるのかがわからないといった気持ちになるかもしれません。
精神科医の香山リカさんは、バッシングをする人の心理に被害者意識があると分析しています。こんな人がいるから自分も報われないんだという思いが募る一方で、バッシングによって相手が動揺し、それに賛同を得られると手応えを感じると指摘します。
さらに多くの人から賛同を得られると「こんなに人のために役立ったのだ」という思いが強くなります。これを「自己有用感」と言います。この場合、間違った自己有用感ですが。(『毎日新聞』2020年7月12日)
ネットバッシングでは間違った正義感がよく指摘されていますが、こうした「自己有用感」は自身の正義を肯定する役割も果たすようです。
炎上の中心は4万人中7人
じつはネットバッシングが行われる「炎上」の参加経験に関するアンケート調査といったものも実施されています。慶應義塾大学経済学部准教授の田中辰雄氏と、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター講師の山口真一氏が実施したもので、ネット利用者の4万人を対象にしたものです。その結果、炎上に参加した人達に共通する心理が、心理が強い処罰感情だということはわかりました。
この分析には誰もが納得するのではないでしょうか。
処罰感情とは、犯罪が起きたときなどに社会や被害者がどんな罰を与えたいのかを示すもので、処罰感情が強ければより重い処罰を求めます。実際、不倫した芸能人などをバッシングしている人は、謝罪だけでは納得できない、番組降板などの重い罰を望みます。こうした行動は、処罰感情と密接に関わってくるのです。
このアンケート調査によれば、炎上に参加するのは、感想を軽く書き込むだけのライトな参加者と、何度も投稿を繰り返すヘビーな参加者に分かれるそうです。そして1年間に11件以上の炎上に参加し、1件あたり最高で50回以上書き込んだ人は、7人いたことが分かったのです。
4万人の調査で7人ですから、人数的にはかなり少数ですが、こうした人が炎上の中心にいることは間違い無いでしょう。そして、この7人に共通しているのが強い被害者意識だというのです。
「アンケートによると、スーパー・セブンは『罪を犯した人は世の中から退場すべき』『ずるいやつがのさばるのが世の中』『努力は報われないものだ』と考える傾向がライトな参加者に比べて強かった。世の中に対して恨みを持ち、被害者意識が極端に強い」(『PRESIDENT』2017年10月2日号)
ちなみにこの7人の学歴も年収も結婚の有無もバラバラで、属性に明確な特徴はなかったそうです。
一方、ライトな参加者については、中心世代は30〜40代で、年収が高いほど参加率も高く、子どもの同居率も高いそうです。
『PRESIDENT』の記事も
炎上に参加するのは独身で貧乏、ストレスを抱えた人たちという見方は偏見だ
と結論付けています。
保身から被害者ぶる
少なくともライトな炎上参加者は、客観的に見れば、めぐまれた生活を続けています。その一方で被害者意識と関連する炎上に参加する心理は、どのようなものでしょうか?
精神科医の片田珠美さんは、著作『被害者のふりをせずにはいられない人』で、エリートでも「被害者ぶる人」は少なくないと指摘しています。
「血のにじむ努力をして手に入れたポジションや収入だけに、それらに対する執着が人一倍強い。執着が強ければ、自己保身への欲求も強くなる。かくして保身というメリットのために、自分が被害者であるかのように装うのである」(『被害者のふりをせずにはいられない人』青春出版社)
また、無関係の第三者を叩く人は、自分の行為を正当化するために、本当の被害者と自分を同一視するとも指摘しています。
つまり不倫であれば、不倫された妻や夫の立場を代弁するような形でバッシングを展開していくのです。
そしてその心理を次のように解説しています。
「自分は直接の当事者ではないが、正義の側に立っているから、自分が行う『加害者』への処罰は正当なものである」と胸を張れる。正義を手に入れた〝被害者ぶる人〟は、行動に躊躇がなくなる。怒りの置き換えのターゲットはもともと抵抗できない立場にいることも相まって、行動はますますエスカレートしていく」(『被害者のふりをせずにはいられない人』片田珠美/青春出版社)
片田さんは、近年、日本で被害者意識が高まってきており、それが社会的な混乱を生んでいると解説しています。現在、Webでのバッシングへの訴訟が相次いでいます。Webであれば何を言ってもいいという時代は終わりを告げようとしているのかもしれません。
また、このような行動を止められないことは、心理的な問題ともかかわるかもしれません。ただ罰するだけでは、攻撃してしまう心の問題を解決する方法も考える必要があるでしょう。
心理的な問題に興味のある方は、こちらもご覧ください。
参考:『毎日新聞』2020年7月12日/『PRESIDENT』2017年10月2日号/『被害者のふりをせずにはいられない人』片田珠美/青春出版社