プロジェクトを立ち上げようとして、「はて、誰をグループリーダーにしようか」と思い悩むのは管理職の常です。心理学では、どんな人がリーダーにふさわしいとされているかご存じでしょうか。心理学におけるさまざまな知識を得て、リーダーにふさわしい部下を選びましょう。
- 人を「見下すリーダー」と、「思いやりがある」リーダー
- 心理学におけるリーダーシップへの3つの考察
- 1つめ:個人的特性「生まれながらのリーダー」
- 2つめ:リーダーの行動パターン「これなら誰でもリーダーに?」
- 3つめ:状況対応が大事「集団特性によって求められるリーダーは違う」
- さあ、どんなリーダーを選ぶ?
人を「見下すリーダー」と、「思いやりがある」リーダー
見下す傾向にある人と、優しく思いやりを示す人、どちらがリーダーシップを備えていると思いますか。スタンフォード大学の心理学者、ケリー・マクゴニガル教授は、「『人を見下すリーダー』と『思いやりがあるリーダー』どちらの人物もリーダーにふさわしい」と断言しています。自信にあふれ強そうな人も、やさしく思いやりのある人も、どちらもリーダーの素質を持っているというのです!?
ケリー氏の研究によれば、一見正反対の性格に見えるこの2人の共通点は、「強さ」と「知性」を表すものです。自信にあふれ、圧倒的なリーダーシップをとる人の有無を言わせぬ指揮能力と、優しくメンバーを包み込み、すべてをサポートしようとする包容力。いずれもリーダーとして武器になるということでしょう。ちなみにケリー氏が教えるスタンフォード大学のビジネススクールでは、「『思いやりは弱みにつながる』と思われているため」、「思いやり」がリーダーシップの発揮につながることに学生が驚いたそうです。日本人としては、「見下すリーダー」というだけでリーダーシップが発揮できないように感じるのですが、これは文化の違いかもしれません。
だからこそこの調査だけをもとにしてリーダーを決めるわけにはいかないでしょう。正反対の性格の社員、どちらをリーダーに据えればいいのでしょうか。まだまだヒントが必要ですね。
心理学におけるリーダーシップへの3つの考察
長年、心理学ではリーダーシップについての研究がたくさん行われてきました。各研究は、次の3つのアプローチからなされ、それぞれ理論が構築されています。順にご紹介しましょう。
1つめ:個人的特性「生まれながらのリーダー」
古くからのリーダーシップ研究は、「リーダーシップをとるにふさわしい特性を持った人物がいる」という前提から始まるものが主でした。「頭脳明晰」「自信がある」「社交性に富んでいる」「責任感が強い」などの特性をあらかじめ持った人をリーダーに据えるのが良いという考え方です。
いずれの特性も、就職活動時に企業が学生に求めるものではないでしょうか。そう、あらかじめリーダーの潜在能力を持つ学生を採用しておけば、リーダーを決めるときに困ることはありませんよね。では、なぜ特性を意識して社員を採用したはずなのに、リーダーを決めるときにこれほど困るのでしょうか。
きっと、個人の特性は重要でも、リーダーを決めるときの決定打にはならないからです。実際、現代の心理学では、特性論はあまり意味を持たないものとされています。結局、先にあげたような特性を持っていることは珍しくなく、リーダーならではの明確な特性を特定するところまでにはたどり着いていません。
2つめ:リーダーの行動パターン「これなら誰でもリーダーに?」
2つめは、リーダーの特性ではなく行動パターンをみる方法です。積極的に働きかけをし、グイグイ仲間を引っ張っていくタイプのリーダーと、気配り上手でグループの雰囲気を高めるのが得意なタイプのリーダー、どちらも是とします。問題は、グループの目的が何かにあります。
もしもグループの目的がある目標を達成することであれば、積極派のほうがリーダーにふさわしく、生産性もグループの満足度もアップするという結果が出ています。一方で、目的がそのグループを結束させること、存続させることである、あるいは目的が漠然としているとすれば、気配り上手なほうがリーダーにふさわしいとされるのです。
プロジェクトの目的によってリーダーの行動を変えることが有効であると、この研究は示しています。リーダーを決めたいときは、まずプロジェクトの目的に立ち返るのがいいかもしれません。さらに、特性ではなく行動の問題なので、リーダーとしてどうふるまうのを効果的かつ正確にアドバイスができれば、誰でもリーダーに据えられるともいえます。
3つめ:状況対応が大事「集団特性によって求められるリーダーは違う」
3つめは、どんな人がリーダーにふさわしいかは、グループが置かれている状況、グループの特性によって違うというものです。この場合、じっくり観察しなければならないのは状況や集団特性であり、その集団や状況にふさわしいリーダーのモデル像を作り上げてから、最もイメージにぴったりな人を選出することになります。
例えば、メンバーの成熟度が高ければ高いほど、リーダーの行動は指揮型から参加型になったほうがうまくいくという研究があります。もちろん、初めから成熟した集団はあり得ません。指揮を執る側から一緒に仕事を楽しむ側へと、グループの成熟度合いに合わせてリーダーが変化することが必要です。そう考えれば、「その集団にふさわしいリーダーとは何か」を考えられ、柔軟に態度を変えていけるしなやかな感性の持ち主が、リーダーに向いているといえるでしょう。
さあ、どんなリーダーを選ぶ?
リーダーに誰を据えるか、そのことだけを考えていると考えが行き詰まってしまうため、プロジェクトの目的やグループの特性を改めて考えてみることがポイントになります。すると、本当にリーダーにふさわしい人物が浮き上がってくることでしょう。また、メンバー構成が決まってからもプロジェクト内容をじっくり観察し、どうふるまうべきかリーダーを指導することも大事です。
参考:『スタンフォードの心理学 人生がうまくいくシンプルなルール』(日経BP社)『プロが教える心理学のすべてがわかる本』(ナツメ社)『対人社会心理学重要研究集1』