どんな人を部下に雇えばいいのか?面接などで考えてしまう人もいることでしょう。しかし心理学的には1971年に答えが出ています。働く意欲に関する心理学者ハックマンとロウラーの実験を紹介しましょう!
- 従業員のモチベーションを高める4つのポイント
- 業績もモチベーションも高い人って
- 「成長欲求」に必要な4つ欲求
従業員のモチベーションを高める4つのポイント
仕事を外注する場合は、いかに的確に素早く仕事をあげてくれるのかが重要になるでしょう。しかし部下のとなると、若干話が違ってきます。長年、一緒に仕事を続けるなら、多少不器用でも粘り強く続けてくれた方がいいと感じるでしょうし、モチベーション高く仕事をサボらない人がいいとも感じるのではないでしょうか。
心理学者のバックマンとロウラーは、仕事をする人の心理的な特性が、仕事に対する態度や特性にどのようにかかわっていくのかを実験しました。実験に参加したのは、13業種の208人。さらに測定の信頼度を計測するために、実験参加者の直属の上司62人のデータも集められました。
実験参加者は、自分の仕事について、さまざまな観点から7段階で評価しました。その結果、以下の4つの項目が、実験参加者の満足度やモチベーション、業績や欠勤の少なさなどの行動に関連のあることがわかりました。
①仕事の多様性
②仕事遂行上の自律性
……自分で仕事の段取りを決めることの多さ
③仕事の全体性
……仕事の全体を自分で責任を持って行える度合い
④仕事結果のフィードバック
……自分の仕事の出来ばえを知ることができる度合い
つまり、部下の仕事への満足度を上げ、モチベーションを高く維持するためには、多様な仕事を、ある程度裁量権を与えられた形で行い、そのフィードバックを的確に行われている必要があるのです。
「部下のやる気が……」と嘆く前に、上司は上記の4点について検証してみる必要があるでしょう。
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業績もモチベーションも高い人って
これだけのでも重要な実験なのですが、この実験はさらに重要な発見をしています。それは、実験参加者のどういった心理的特性が、仕事をするのにプラスに働いているのかを明らかにしたこと。
じつは「成長欲求」の高い実験参加者ほど、モチベーションも高く、質的にも量的にも業績が良く、仕事への関与度も高く、仕事への満足度も高く、欠勤も少なくないことがわかっているのです。
つまりロングスパンで考えるなら、成長への意欲の高い人が最もよい人材だといえるのです
考えてみれば、成長欲求の高い人ほどしっかりとした成果を出していたりするものです。これは仕事だけに限った話ではなく、トップアスリートなどもインタビューで自身の成長についてよく話しています。
またある分野で優れた業績を残している人は、その分野以外でも趣味の範疇を超えるほどの業績を上げていることもあります。何かに熱中すると「成長したい」と考える性格特性は、ビジネスにプラスに働くことは間違いないでしょう。
もちろん自身の成長を受け止める「器」がビジネスの環境にないと、日本のプロ野球界を去って大リーグに挑戦するように、会社を去っていってしまうかもしれません。
しかしかつてのような「終身雇用制」も影が薄くなり、よい労働環境を求めて転職をするのが当たり前の現在、成長意欲の高い人を抜擢することは、確実にプラスに働くでしょう。
「成長欲求」に必要な4つ欲求
もちろん「成長欲求」が高い人だけを、職場に集められればいいのかもしれせんが、実際にはかなり難しいでしょう。では、従業員の「成長欲求」を刺激するには、どうしたらいいのでしょうか?
その参考になりそうなのが、有名なマズローの欲求5段階説です。読者の方もピラミッド型に図解された欲求5段階を見たことがあるかもしれません。
簡単に説明すると、人は5つの欲求を段階的に満たしながら成長していくという説です。その5つの欲求は以下の通りです。
自己実現の欲求 ……才能を活かして最高の自分になりたい
承認の欲求 ……他者から認められたい
所属の欲求 ……人と理解しあい受け入れてもらえる場を持ちたい
安全の欲求 ……安全で安定した生活がしたい
生理的欲求 ……食欲や睡眠欲を満たしたい
こうやって並べてみると、「生理的欲求」が満足できて、やっと「安全の欲求」が湧いてくるのが理解できるでしょう。
この5つの欲求のうち、「承認の欲求」「所属の欲求」「安全の欲求」「生理的欲求」の4つを「欠乏欲求」と呼び、「自己実現の欲求」を「成長欲求」と呼びます。つまり「成長欲求」は、下位の4つの欲求を満たしてこそ高まるといえるのです。
睡眠時間を削り、食事も満足に取れないようなブラックな職場では「生理的欲求」が満たされないでしょうし、いつクビを切られるのかわからないという状況では「安全の欲求」を満たせないでしょう。職場を自分の居場所だと感じられないようでは「所属の欲求」を満たせないでしょう。さらに、部下の頑張りをしっかりと認め、そのフィードバックをすることで「自己実現の欲求」が満たされるのです。
「生理的欲求」や「安全の欲求」が満たされない職場は、従業員の成長を望むべくもないでしょうが、「承認の欲求」や「所属の欲求」については、上司ができることも少なくありません。
目標を決めて、部下の尻を叩くだけではなく、自ら成長したいと思わせる労働環境を提供することが、長い目で見れば企業の成長につながるといえそうです。
さあ、部下の「成長欲求」を高めるために何ができるのかを、考えてみませんか?
参考:『対人社会心理学重要研究集1』(誠信書房)