先延ばしに悩んでいる人は少なくありません。先延ばしを克服するための書籍もかなり発売されています。ただ、なかなか改善しないのも事実のようです。そした状況の中、睡眠と先延ばしの関係に関連する研究が、いくつか発表され、注目を集めています。
- 先延ばしする人は環境に敏感!?
- 睡眠の先延ばしに要注意
- 退屈な日々が先延ばしの原因に
- 対策は昼と夜の両方で!
先延ばしする人は環境に敏感!?
筑波大学大学院の黒住嶺氏が2015年に実施した調査によれば、「あなたは“先延ばし”をどの程度しがちだと思いますか?」という質問に、58%が「よくする」と答えています。また、「“先延ばし”を行わないようにしたいと思いますか?」という問いには、63%が「強くそう思う」と答えいます。
上記のアンケートのようになかなか改善が難しい問題でもあり、その原因についても性格特性などがあげられていました。しかし最近、注目を集めているのは睡眠です。
アムステルダム大学の研究によれば、睡眠の質が先延ばしと関係があることがわかったのです。睡眠の質が悪いと、自制心が弱くなり、先延ばしをしがちだとわかったのです。さらに先延ばしをしてしまう人は、「先延ばしをしがちな性格」なのではなく、「先延ばしを引き起こす要因の影響を受けやすい人」だと明らかになったのです。
もともと意志力は我慢を続ければ弱くなるし、疲れていると働きにくくなることが知られていました。そして意志力と関係の深い先延ばしも、疲れているときほど起きやすいと言われてきました。そして今回の研究によって、先延ばしを引き起こしやすい環境を改善することが重要で、そのさいに注目すべきポイントが睡眠だとわかったのです。
睡眠の先延ばしに要注意
睡眠と先延ばしの関係は、これだけではありません。じつは先延ばしをする人は、睡眠を先延ばしにする傾向が高いことが、ユトレヒト大学のフロア・クローゼ助教授により判明したのです。
「睡眠の先延ばし?」と疑問に思う人もいるでしょう。
通常、先延ばしは嫌なこと、気が乗らないタスクに対して発生します。しかし寝つきがよく、寝るのが嫌いではない人でも、睡眠の先延ばしは起こります。何となくダラダラと起きてしまうといったことを、先延ばし癖のある人はやってしまいます。
その結果睡眠不足になると、日中に先延ばしをする可能性が高まり、さらに夜にダラダラ起きてしまうといった悪循環に陥る可能性があるそうです。もちろんタスクを細かくして取り掛かりやすくするといった、具体的な先延ばし対策も重要ですが、こうした悪循環を避けるために環境を整えることが重要のようです。
退屈な日々が先延ばしの原因に
では、どんな心理が睡眠の先延ばしに関係しているのでしょうか?
クローゼ助教授は、「眠りたくないのではなく、他の活動をやめたくないという心境ではないか」と予測しています。
編集者であるダフネ・リー氏は、忙し過ぎる毎日によって自分の時間が取れなくなり、短い時間でも何かしたいと想いが募って睡眠時間を削ってしまうのだという解説し、こうした夜更かしを「リベンジ夜更かし」と名付けました。ままならない昼間の復讐を夜に果たすというわけです。
昼間の過ごし方と睡眠の先延ばしに関係があることは、研究レベルでも明らかになっています。
シンガポールのジェームズクック大学で講師をしているアイ・ニテオ氏は、退屈と睡眠の関係を指摘しています。昼間、退屈に過ごしている人ほど、睡眠の先延ばしをすることが判明したというのです。しかも退屈な時間をやりすごすために起こるボーっとした、あまり集中しない時間がよくないと言うのです。退屈な講義などで何となく話を聴いていたり、手だけは動いているけれど作業に集中していなかったりといったことのようです。こうした実感が睡眠の先延ばしを引き起こすと、ニテオ氏は説明します。
つまり昼間の過ごし方に気を付けることも、先延ばしを改善する重要なポイントとなるわけです。
対策は昼と夜の両方で!
では、どのようにすれば先延ばしを発生させやすくなる「睡眠の先延ばし」を防止できるのでしょうか?
まず、昼間の過ごし方です。
仕事や授業が退屈と感じているのなら、昼休みなどに何かに没頭できる時間をつくりましょう。好きなドラマや趣味の動画を見るのもいいでしょうし、まっすぐに帰宅せず映画に行ったり落ち着く環境で本を読んだりするのもいいでしょう。とにかく心ときめくことを、1日の生活の中にスケジュールすることが重要です。ずっと退屈な気分のままに夜更かしに突入するのは、お勧めしません。
しっかりと、いつ何をするのか計画を立てましょう。睡眠の先延ばしをしているケースでは、たいして面白くないことに時間を費やしてしまうケースも少なくありません。ダラダラとネットサーフィンをしてしまうのは、その代表的な例でしょう。退屈の延長線上に時間を使うのではなく、自分のやりたいことをしっかり選んで取り掛かる。そんな時間をつくりましょう。
もう一つ重要なのは、寝る前の時間の使い方です。
睡眠の先延ばし癖のある人は、睡眠時間を定めるだけでは効果が薄いと専門家は指摘しています。寝る前の習慣づくりが重要なのだそうです。
米国睡眠医学会のフェローであるマイケル・ブレウス氏が提案するのは、睡眠の1時間前から行動を習慣化することです。
最初の20分は、雑事を片付けます。ベッドを整えたり、布団を敷いたり、明日の予定を確認するといったこともあるでしょう。
次の20分は、歯磨きなど衛生に関する行動をする時間です。「温浴」などもこの時間に入っているので、素早くシャワーを浴びる習慣のある人なども、この時間に片付けます。
最後の20分は、リラクゼーションの時間です。瞑想などもおすすめされています。マインドフルネスは睡眠の先延ばしに効果があるとされているので、思い切って習慣化するのもいいでしょう。
さすがに1時間もかけられないという人は、最後の20分だけでも実行してみてはいかがでしょう。
また、この習慣を守るために、定時にスマホの電源を切れるといったアプリを導入することも推奨されていました。寝る前の習慣が始まる前にアラームを鳴らし、それから質の高い睡眠に向けて活動し、そこからスマホに触れないように電源を切るといったことが、最終的に先延ばしの防止になるようです。
日々の生活に使える心理学の活用法に興味のある方は、こちらもご覧ください。
監修:日本産業カウンセラー協会
参考:「New study sheds light on how boredom affects bedtime procrastination and sleep quality」(PsyPost/Eric W. Dolan)/「先延ばし後の意識に対して“特性”がもたらす効果の検討」(科黒住嶺)/「Why You Stay Up So Late, Even When You Know You Shouldn’t」(Ashley Lauretta/WIRED)/「Bedtime procrastination: introducing a new area of procrastination」(Floor M. Kroese, Denise T. D. De Ridder, Catharine Evers and Marieke A. Adriaanse)