「ソーハラ」って知っていますか?ソーシャルメディアハラスメントの略で、SNSを通して行われる嫌がらせを指します。コロナ禍でテレワークが増える中、ソーハラも増えているとのこと。何が問題で、その裏側にどんな心理があるのかを心理学から読み解きました!
- 「いいね」だってソーハラに!?
- ソーハラが起きる3つの理由
- 効果的なソーハラ対策とは
「いいね」だってソーハラに!?
テレワークの拡大によって、LINEなどで連絡を取り合う機会も増えているようです。ところが業務に関係ない連絡が、LINEから頻繁にくることも。これは典型的な「ソーハラ」です。
そのほかにも、「仕事関係者からフェイスブックの友達申請がきた」「教えていないのにLINEの申請がきた」「SNSの投稿に間髪入れず『いいね』がつく」「SNSに載せたプライベートな話題を職場で持ち出される」「SNSのアドレスを教えるように迫られた」といったこともソーハラの一環でしょう。
やられた方からしてみると「気持ち悪い」と感じるハラスメントの数々ですが、やった本人はあまり悪気がないのも問題のようです。
ハラスメントとは、「相手を不快にさせたり、尊厳を傷つけたり、不利益を与えたり、脅威を与えること」。加害者が「こんなことぐらいで?」と思っても、相手に不快な思いをさせているなら、それはハラスメントになるのです。
ソーハラが起きる3つの理由
では、どうして「ソーハラ」は起きるのでしょうか?
じつはセクハラやパワハラなどは絶対にしなそうな人でも、「ソーハラ」の加害者になる可能性があります。というのも「ソーハラ」の根幹には、SNSに付随するジェネレーションギャップがあるからです。無知から起きるハラスメントを防ぐためにも、「ソーハラ」の原因となるジェネレーションギャップをしっかり押さえておきましょう。
①40代以上が知らないネット空間の「プライベート」化
NTTコム リサーチと有馬賢治・立教大学教授が実施したアンケート調査によれば、若年層はネット空間でも「パブリック」と「プライベート」を使い分けているそうです。一方、40代以上には、そのような傾向が見られませんでした。
そのポイントになったのが羞恥心の有無でした。
「上の世代になるほどすべてのSNSで慎重に発信するのに対し、若い世代は小規模グループなどプライベートなSNS空間であれば発信内容に羞恥心は覚えづらく、その中であれば多少羽目を外して発信しても大丈夫、と認識しているのではないかと受け取れます」(「10~20代、電話や対面での会話は4割以下…LINE等でつながれば孤独感感じず」)
と有馬教授。
中高年にとって「パブリック」な空間と感じるSNSが、若い人にとっては「プライベート」な空間だったりするのですから、「ソーハラ」が起きるのも無理のないことかもしれません。
SNSの投稿に対する上司の「いいね」なども、若い人にとっては自分のプライベート空間に土足で踏み込まれたと感じるかもしれないからです。一方、上司からすると公的に発せられた情報に反応しているだけ。そのギャップは大きいようです。
内閣府が15~29歳の男女6000人を対象に実施した調査でも、同様の結果が報告されています。インターネット空間を自分の居場所だと感じる人は、「自分の部屋」「家庭」に次いで多かったのです。なんと62.1%の人が「自分の居場所」だと感じている場に、むやみに立ち入るは危険なことでしょう。
②SNSのコミュニケーションスキル不足
ソーハラに背景にあるもう一つの要因は、乏しいコミュニケーションスキルです。立正大学の高橋尚也教授と伊藤綾花氏の研究によれば、SNSに登録して利用するものの、自らあまり発信せず、他者の書き込みも気にしない人は、「スルースキル」と「表現法配慮」のポイントが、他の人より低いそうです。
SNSは短い文章でやりとりすることも多いため誤解も生じやすくなるもの。またツイッターなどでは他者からの挑発的な言葉を浴びせられることも少なくありません。だからこそ対人的な摩擦を回避し、挑発を無視するスキルを、多くの人は実践から学んでいきます。
また他者を不快にさせないための表現上の配慮も、SNSを通して身に付けていくのです。
一方、こうした「訓練期間」を経ず、いきなり職場でSNSを使おうとすると、SNSに必要な配慮が身に付いていないために、相手を不快させてしまうのです。
考えてみれば、ビジネス上の電話対応や手紙の書き方などは新入社員のときに教わるのに、SNSはいきなり実践です。問題が起きるのも当然かもしれませんね。
③人間関係の変化
京都女子大学の正木大貴准教授は、若者の人間関係について、「円滑でうまく付き合っていくことを望み、場の空気に合わせたやり取りが好まれる」と書いています。そのため状況に応じて使い分ける「キャラ」を活用していると指摘しています。そして、こうした行動には、次のようなメリットがあるそうです。
不用意に自分が傷つくようなことはなく、距離が近すぎて関係がこじれるような面倒くささがない(「SNSは人間関係を変えたのか?」)
SNSは、こうしたメリット追求にピッタリのコミュニケーションツールなのだそうです。逆に言えば、場の空気を理解しない人には向かないコミュニティと言えるでしょう。自分の「キャラ」設定など考えたことのない中高年などが、SNSの暗黙のルールを把握するのは容易ではないでしょう。
効果的なソーハラ対策とは
SNSのルールの多くは、若い人たちでつくり上げてきました。それはビジネスの利用を前提としたものではありません。だからこそ若い人にとってのプライベートな空間や情報が無造作に置かれがちです。それを配慮しないで、土足で踏み込むような行為をすれば、「ソーハラ」となります。
「ソーハラ」対策としては、職場の人とSNSをつなげないようにすることが最も効果的です。公開の範囲を限定し、職場の人とSNSでつながらないことを公言しておくといいでしょう。
ただSNSを使わなければいけないケースもあります。その場合は業務連絡以外スルーするといった方法もありますし、複数のアカウントをつくって会社とプライベートを分けるといった方法もあります。
それでもプライベートゾーンに侵入してくるようであれば、上司やハラスメントの窓口などで相談するといった方法もあるでしょう。
逆に「ソーハラ」をしてしまいそうで怖いと感じている人は、SNSを業務以外に使わないようにした方がいいでしょう。ときに「SNS疲れ」といった状況を経験しながら、多く人が必死に身に付けてきたSNSスキルを、簡単に学ぶことなどできないからです。
部下のSNSアカウントを知って、距離が縮まったと考えるのは危険かもしれませんよ。
ハラスメントなどビジネスで問題となる心理に興味のある方は、こちらもご覧ください。
監修:日本産業カウンセラー協会
参考:「SNS利用における青年の対人関係特性」(高橋尚也・伊藤綾花)/「SNSは人間関係を変えたのか?」(正木大貴)/「10~20代、電話や対面での会話は4割以下…LINE等でつながれば孤独感感じず」(Business Journal)