緊急事態宣言が守られなくなる6つのポイント

現在、日本各地で非常事態宣言が出されています。しかし必ずしも人流を抑えられていないといった報道もあります。そこで、どんな条件がそろうと、非常事態宣言に従わない人が増えるのか、心理学的に調べてみました。

夜間の人流は増えている

東京都の人流データの分析を実施している社会健康医学研究センターによれば、東京都を含めた4都府県に緊急事態宣言が出された4月25日から2週間は、東京都の主要繁華街の人流が抑制されたものの、5月8日からは増加に転じています。ゴールデンウィークとも関係があると思いますが、1月8日に出された2回目の宣言と比べると、20時以降の夜間滞留人口の上昇が早いようです。

滞留人口を比較すると、今回は2回目より滞留人口が減ったものの、1回目ほど抑制できていない状況です。また今回は、「自粛疲れ」で感染抑制を軽視する人が増えたとも報道されています。

では、どんな条件が重なると、規制や法律に従わなくなるのでしょうか? 調べてみました。

①自分は安全だという意識
飲酒運転をする人は、飲酒運転の怖さがわかっていないと指摘されています。それは新型コロナウイルスでも同じでしょう。感染確率の低い若者ほど路上で飲酒をしている率が高いといった現象は、リスクに対する世代間の差もあるのです。

またコロナ禍では、正常性バイアスが働きます。
正常性バイアスとは、都合の悪い状況を過小評価して「自分は大丈夫」だと思い込む心理です。災害などで取り上げられることの多い心理現象です。

そして正常性バイアスの特徴の一つは、ジワジワと危機感が増加するケースだと、より危機感を持たなくなること。例えば、ゆっくりと煙が部屋に入ってくるケースだと、煙が充満しても逃げないといったことが起きるのです。
新型コロナウイルスは長期的な災害のため、自分は大丈夫だと勘違いしやすいようです。

筑波大学の外山美樹准教授は、2020年夏に行った新型コロナへの感染についての意識調査で、「一般的な日本人は感染しないと思っていた」のが22%なのに、「自分は感染しないと思っていた」という人が45%にのぼったと発表しています。
外山准教授によれば、こうした正常性バイアスが、ストレスの低下につながっているものの、不要不急の外出にもつながる可能性があると指摘しています。

②危機への慣れ
コロナ禍での生活が1年以上にわたり、多くの人が危機に慣れてしまってきています。リスクが続くほどに、人は危機感を持たなくなります。結果、不要不急以外の外出も増えてしまうのです。

③違反しても罰則がない

法律が守られる理由の一つに罰則があります。罰金や刑罰、あるいは違反が発覚すると白い目で見られるという社会的制裁から、規則を守るという考え方です。

緊急事態宣言下では、地方自治体の要請応じない事業者には、行政罰が科されます。ただしかなり限定的な措置です。また飲食店などに対しては、度重なる規制による同情の声も上がっており、社会的な制裁の可能性は低くなってきていると言えるでしょう。

もちろん罰則を強化すれば、規則が守られるというほど単純なものではありませんが、現在の非常事態宣言の効果は限定的といえるかもしれません。

④ルールをつくった人の行動が信用できない
心理学者のトム・タイラーによれば、法の手続きが公正で、法律を制定したり執行する人の行動が信頼できるとき、人は法律を守るそうです。

つまりルールを決めた側が会食をしているといったことが続けば、緊急事態宣下を守ろうとする人も減ってしまうのです。

⑤違反者が増える
違反する行動を見かける機会が多いほど、人はルールを守らなくなります。「みんながやっているからいいか」となってしまうのです。公園などでの飲み会などが頻繁に見られるようになれば、より規制が効かなくなっていくのかもしれません。

⑥ルール違反が他人のためになる
行動経済学者のダン・アリエリーは、問題を説かせて、その正当数に応じて報酬を渡す実験を行いました。ある集団には答案を回収して採点し、もう一つの集団では点数を自己採点させました。結果、自己採点の平均点が回収した場合より高くなりました。

また不正な自己申告がグループの仲間に有利に働く場合は、さらに平均点が上がることも発見しました。面白いことに自分と仲間の両方に利益があるときより、仲間だけに利益があるケースのほうが、平均点が高くなりました。

今回の緊急事態宣言でいえば、お酒を提供できない飲食店や酒造メーカーのためといった意識がお客に強まれば、店側もお客側も自粛に従わなくなっていくかもしれません。規制に従う意義が崩れるだけではなく、崩した方がみんなのためになると多くの人が考え始めると、規制の維持は難しくなりそうです。

これまでの報道を見ていると、①~④の条件はかなり満たされているようです。緊急事態宣言による人流を抑制するには、これ以上、違反者が増えないことと、違反が他者を救うといった理解が進まないことがポイントになりそうです。

日々の生活に使える心理学の活用法に興味のある方は、こちらもご覧ください。

監修:日本産業カウンセラー協会

参考:外山美樹(筑波大学「知」活用プログラム)/「法を守る動機と破る動機 ―規制と違法のいたちごっこに関する試論」(飯田高・成蹊大学教授)/

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