危険性を感じたときこそ冷静な判断が求められます。しかしリスクを感じる状況だからこそ陥ってしまう思考のワナもあります。今日は不確かな状況で判断を行うときこそ理解しておきたいヒューリスティックについて解説します。
大まかに判断しようとするヒューリスティック
不確かな状況では、さまざまな要因を分析することはできません。そのため人間の脳はおおまかに状況をつかんで、経験則や直感で判断しようとします。こうした認識の仕方をヒューリスティックと呼びます。
ヒューリスティックは人が日常的に使っているものですが、リスクがあるときには、少し注意が必要です。非常事態宣言が出た今だからこそ、危険を招きやすいヒューリスティックのパターンを知っておきましょう。
①代表性ヒューリスティック
典型的だと思われる事柄の確率を過大に評価しやすい意思決定のやり方です。このヒューリスティックの有名な実験に、「リンダ問題」があります。
「リンダは非常に知的で、はっきりものを言う。大学時代は哲学を専攻し、学生の頃は社会主義と差別問題に関する活動に深く関わり、核兵器反対のデモにも参加したことがある」(「意思決定におけるバイアス矯正の研究動向」相馬正史・都築誉史)
さて、この女性は次のどちらだと思いますか?
A 彼女は銀行員である
B 彼女は銀行員で、女性運動で活動している
この問題を実験すると、Bと回答する人が多くなることがわかっています。しかしリンダの記述は大学時代の話ですし、そもそもAの確率の方がBより高いのです。しかし学生時代の代表的な活動の記述が、Bを選ばせてしまうのです。
新型コロナウイルスの初期症状についても、肺炎の危険性が浸透しているせいか咳などが出ると不安になりがちですが、発熱などの初期症状についてしっかりと調べることが重要になってきます。
②利用可能性ヒューリスティック
これはよく目にしたり、耳にしたりしている事の発生確率を高く見積もってしまう判断の仕方です。
この説明でよく使われるのが、飛行機事故の確率です。飛行機事故は墜落すると死亡者の数も多くなるので、かなり大きく報道され、人々の記憶に残ります。そのため飛行機は乗り物としては危険だと思ってしまうかもしれませんが、米国の国家安全運輸委員会(NTSB)の調査によれば、飛行機墜落に遭遇する確率は0.0009%なのです。
一方、国土交通省によれば、生涯で交通事故に遭う確率は53%です。つまり車を運転する方が、飛行機に乗るよりも圧倒的に事故に遭いやすいのです。
新型コロナウイルスと代表性ヒューリスティックの関係については、立命館大学の森知晴准教授はツイッター(@tomo_econ)で、次のようにつぶやいています。
「有名な人にも起こったからこれは高確率の事象に違いない」というのは利用可能性ヒューリスティックによるバイアスだと思いますが、今の東京の現状はそのままバイアスを持って行動していただくくらいで良いと思います。
たしかに志村けんさんの死去で、新型コロナウイルスの怖さを実感した方も多いでしょう。しかし、それぐらい気を引き締めて対処すべき問題ともいえそうです。
③係留と調整ヒューリスティック
最初に与えられた情報を基準として、新しい情報を判断してしまう判断方法です。
例えば、「国連に所属している国のうち、アフリカ大陸にある国家の割合はいくらか」という質問の前に、「65%より大きいか小さいか」と質問された人は、「10%より大きいか小さいか」と質問された人より、大きな割合を答える傾向があるのです。
つまり65%と10%という数字に引きずられて判断が変わってしまうのです。
今回の新型コロナウイルスの問題でも、さまざまな数字が飛びかっています。数字から危険性を判断するときは、しっかりと状況と情報を汲み取る必要があるでしょう。
以上、代表的なヒューリスティックについてお伝えしました。
参考:「意思決定におけるバイアス矯正の研究動向」相馬正史・都築誉史/『リスクコミュニケーションの現在』(平川秀幸・奈良由美子 編著/一般社団法人 放送大学教育振興会)
精神的な危機への対処に関心のある方はこちらをご覧ください。
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