「アイツは愚かだ」と思うほうが愚か! 人はナイーブ・リアリズムから逃れられない

他人のふるまいを見ていて、「もっと客観的な視点に基づいて行動すればいいのに」と、冷静に考えてしまったことはありませんか。でも、そう考えているあなた自身も、他人からは同じようにみられている可能性が高いかもしれません。自分をごく客観的な存在と考えるナイーブ・リアリズムと、他人は自己中心的な存在と捉えるナイーブ・シニシズムについて解説します。

  1. 他者は自分を映す鏡
  2. 自分はごく客観的な存在と思い込みがちなナイーブ・リアリズム
  3. 自分と比べて他人は主観的と考えがちなナイーブ・シニシズム
  4. 他人を「利己的」と糾弾してしまいそうになったら

他者は自分を映す鏡

他人を「愚かだなあ」と思うとき、自分もそう見られているのかもしれません。自分は客観的な存在だなどというのは、自己中心的な思い込みかもしれませんよ。あなたが愚か者だと思って見ている人は、あなた自身を映し出している鏡なのかもしれません

「お説教じみていて嫌だな」と思うでしょうか。実は、心理学的観点から見た人間の意識バイアスについて、実験やそれに基づく学説から得られた結論を述べているだけなのです。ナイーブ・リアリズム、ナイーブ・シニシズムと呼ばれる心的状態について、実際の実験を交えて詳しく説明しましょう。

自分はごく客観的な存在と思い込みがちなナイーブ・リアリズム

ナイーブ・リアリズムとは、自分が他の人とは違い、世界をごく客観的に、偏見なしに見ていると考えている状態のことです。しかし、実際にはさまざまな認知バイアスなしに物事を見られる人は、そう多くはいません。多くの人は、自分のそれまでの経験や知識に基づいて物事を判断するしかないのです。

人は他人の心的状態をどのように捉えているかを観察した実験があります。心理学者のヴァンボーヴェンらは、実験参加者に「登山に出掛けて遭難したら、『喉の渇き』と『飢え』のどちらに苦しむと思うか」と尋ねました。この際、半数の参加者はジムで汗をかいた直後でした。

すると、ジムにいた参加者たちは「喉の渇き」を選び、そうではない参加者たちは「飢え」を選ぶ傾向が大いに見られました。このことから、ジムで汗をかいていた参加者たちは、想像上の遭難者に自分を投影して推論を下したことが考えられます。

ここに、他者の置かれた状況に自分を投影しているだけかもしれないのに、それを客観的な判断だと思い込んでしまうナイーブ・リアリズムがみられます。実験時のような極端な状況ばかりではなく、いついかなるときも、判断時にはナイーブ・リアリズムに基づくバイアスがかかっていると、自分を疑ったほうがいいかもしれません。

自分と比べて他人は主観的と考えがちなナイーブ・シニシズム

ナイーブ・リアリズムと対をなすのが、ナイーブ・シニシズムという心的状態です。これは、自分よりも相手のほうが物事を客観的に見られず、自己中心的な傾向にあると思い込んでしまう認知バイアスをいいます。ナイーブ・リアリズムと同様に、このバイアスは誰にでもみられるものです。

クルーガーらは、2人が力を合わせてクリアするテレビゲームを使って、次のような実験を行いました。実験参加者らに、それぞれペアになってゲームを体験してもらい、ゲームへの貢献度はどちらが高かったか、責任はどちらが大きかったかを尋ねました。またそれと同時に、ゲームを一緒に行った相手は貢献度や責任についてどう捉えているかを推論させたのです。

すると、ゲームの結果が好ましいものだったときには、「相手は自分がかなりゲームに貢献したと考えているだろう」と推論した人が多く、好ましくないものだったときには、「相手はゲームがうまくいかないのを私の責任だと考えているだろう」と推論した人が多いという結果が出ました。しかし実際には、そう断言できるような結果は見られませんでした。

この実験は、人が自分よりも他者のほうが自己中心的と考える傾向にあることを示しています。まさにナイーブ・シニシズムが誰の心の中にもあることを示唆したものです。

他人を「利己的」と糾弾してしまいそうになったら

「人間は利己的な存在だ」と言うとき、それが自分自身も含むことを忘れてはならないでしょう。もしかして、家族や友人と話をするときに「え、その感覚はおかしいでしょう」「一般的に、そういう考えにはならないと思うよ」などと言って攻め立ててはいませんか。

他人を「あなたは自己中心的である」と糾弾してしまいそうになったら、ナイーブ・リアリズムとナイーブ・シニシズムの意識バイアスを思い出してみましょう。人が陥りがちな傾向や、一人ひとりの様々な考え方の違いを知って、、さらに視野が広くなる経験ができることでしょう。もっともっと「客観的」になれるよう、相手の感じ方を大事にしてみませんか?

参考:『社会心理学』池田謙一ほか、有斐閣

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