憧れの友人、尊敬する上司、どうしても契約を取りたいお客様など、「あの人と親しくなりたい」と思ったときには、まず相手の癖やしぐさをマネてみるのが有効です。なぜなら、相手に意識されない程度の模倣が、相手から好意を引き出すことが知られているからです。心理実験も、それを実証していますよ。
模倣行動に隠された意味について、心理学の観点から解説します。
- 仲の良い二人、髪形や格好が瓜二つ!というのは、よくある話
- 何も考えていないのにまねしてしまう、非意識的模倣行動
- 模倣行動が関係性にもたらす変化を観察した心理実験
- 意識的な模倣も、相手に悟られなければ効果がある?
- 気づかれたら……ウザがられるかも!注意が必要
仲の良い二人、髪形や格好が瓜二つ!というのは、よくある話
街中で、二人並んで歩いている女子を見かけたときに「双子じゃないけど、雰囲気がそっくりだな」という印象を抱いたこありませんか。友達同士なので顔が瓜二つということはあまりありませんが、髪形がそっくりだったり、ファッションテイストが似通っていたりしているというのは、よくある話です。
どうして仲の良い友人は雰囲気や服装が似通ってくることが多いのでしょうか。「類は友を呼ぶ」という言葉がある通り、そもそも趣味が似ている人を友人として選ぶからという事情はもちろんあるでしょう。しかし、心理学では、意識するとしないとに関わらず、そこには模倣行動が隠されていると考えられています。つまり、お互いに「マネ」をしあうことでそっくりな親友が完成していくのです。
何も考えていないのにまねしてしまう、非意識的模倣行動
特に何も意識していないのに相手の行動をまねしてしまうことは、非意識的模倣行動と呼ばれています。例えば、相手が痛みに顔をゆがめているとき、自分も思わず同じように顔をゆがめてしまうことがあるでしょう。このような行動は昔から知られていましたが、その行動をとる意味はわかっていませんでした。
しかし、数々の心理実験により、非式的模倣行動をするときの心理や、また模倣された側の心理の変化がわかってきました。模倣は、関係性に大切な変化をもたらしていたのです。
模倣行動が関係性にもたらす変化を観察した心理実験
非意識的模倣行動の意味を明らかにした実験に、ボール・パス課題があります。実験参加者に、画面上でボールをパスし合うパソコンゲームを行ってもらい、その中の一人には、他の参加者から一度もパスを回してもらえない状況を味わってもらいました。
理由もわからず仲間外れにされた哀れな参加者は、のちにペアを組んで行うような別課題を行ってもらったときに、ペアになった相手の行動を他の参加者よりも多く模倣したとのこと。排斥を経験したことから、「相手とよりよい関係を持ちたい」という欲求が高まり、非意識的な模倣行動が増加したと考えられます。
つまり、模倣行動は「あなたと仲良くなりたい」というメッセージを出すための動きなのです。そして別の実験では、行動を真似された側はそれに気づかないにもかかわらず、真似をした人に好意的になることが明らかになっています。
意識的な模倣も、相手に悟られなければ効果がある?
非意識的模倣行動は、真似する側も真似される側もそれと気づかない動きです。しかし、好意を持ち、仲良くなりたいと考えている相手には、意識的にしぐさやクセを真似してみることも効果的でしょう。もしかしたら、すでにあなたは相手の何かをマネするようになっているかもしれませんよ。
相手が自然にこちらへ興味を寄せてくれるようになるには、あからさまな模倣行動は慎みましょう。相手が全然気づいていないクセ、相手が書く文字、昼食のときにいつも注文する定食など、さりげなくマネることで、徐々に相手の好感度をアップさせましょう。
気づかれたら……ウザがられるかも!注意が必要
ただし、相手が早々に気づいてしまうような、見え透いた模倣は逆効果になりかねませんから注意が必要です。気をつけたいのが、髪形や服装、小物など、外見をそっくりそのままマネしてしまうこと。「あなたのようになりたいから、マネしちゃった!」と爽やかに言えるような関係ならいいのですが、そうではないなら気味悪がられるかもしれません。相手を逆に遠ざけてしまうことがないよう、意識的に模倣行動をとるときには、十分気をつけましょう。
参考:『社会心理学』池田謙一ほか、有斐閣