ヒーローものの映画を見終わって映画館から颯爽と歩いてくる人は珍しくありません。そして彼らは歩き方だけではなく、行動や思考まで変化している可能性があります! そうした心理をうまく活用しませんか?
- 悪役になってゲームをすると意地悪に!
- 悪役で有名な俳優はどうなる?
- マネをすることで高いパフォーマンスを実現
悪役になってゲームをすると意地悪に!
映画などを見て主人公の気持ちと同化してしまうのは、珍しいことではありません。ヤクザ映画を観て、肩で風を切って歩きたくなるといった行動は、その典型でしょう。
では、こうした影響が人の行動にどこまで影響を与えるのでしょうか? いくらヒーローものの映画を見ても、見て見ぬふりを続けてきた不正を、いきなり暴くといったような行動を取れるとも思えないし……。
そうした疑問に答える心理実験を紹介しましょう。
2014年に『サイコロジカル・サイエンス』に掲載された論文には、ゲームで操作したキャラクターの影響を明らかにしたものでした。
まず実験参加者は、5分間ゲームを楽しみます。ただし操作するゲームのキャラクターが3種類あるのです。ヒーローの代表格スーパーマンを操作するグループ、ハリーポッターで悪役として描かれたヴォルデモートを操作するグループ、ただの円を操作するグループです。
その後、チョコレート味とチリソース味の食べ物を提供。このあと実験参加者にどちらをどれだけ食べさせたいのか決めさせたのです。するとスーパーマンを操作した人は、チョコを16グラム、チリソースを8グラム選んだのに、ヴォルデモートの人はチョコを8グラム、チリソース16グラムと数値が逆転したのです。ちなみに円を操作した人は、チョコ12グラム、チリソース10グラムという結果でした。
つまりゲームのキャラクターで悪役を操作しただけで、人はちょっと意地悪くなるというわけです。しかも実際にゲームを操作した人には大きな影響が出るのに、ゲームのプレイ画像を見ているだけ人は、チョコもチリソースの量も変化はなかったのです。
悪役で有名な俳優はどうなる?
たかが5分間のゲームで性格が変わってしまうなら、俳優として悪役を演じている人は、どんな影響がでるのでしょうか?
2017年8月9日の『産経WEST』に掲載されたインタビューで、悪役俳優として名高い遠藤憲一さんは、次のように語っています。
「本当は、極道みたいな役は得意じゃないんですよ。チンピラはまだいいけど、極道はかなり無理して作ってます」
あれほどのコワモテで映画などで見る限り、極道がはまり役だと感じるのですが、当人としては、「無理」して演じているという……。
また、このインタビューでは、「そもそも普段、貫禄ないんですよ。だから組幹部のようなビシっとした役は苦手で、重厚な空気を出すのに苦労してるんです」とも語っており、必ずしも演じた役柄が実際の性格に影響を与えるわけではないことがわかります。
ただ、これはプロとして理性を持って役を演じることと、無防備にゲームのキャラクターを操作することの違いかもしれません。
あるいは人に拠るのかも……。
やはり悪役の俳優としても評価がある岸部一徳さんは、『週刊現代』の取材で次のように答えています。
「家にいても、誰かの役を演じているような気がすることがあるんです。いったい、何をしている自分が本当の自分なのか、わからなくて混乱する」
俳優はイメージを作り上げるのも大事な仕事なので、インタビューをそのまますべて真に受けるわけにもいきませんが、岸部さんの言葉は衝撃的です。
マネをすることで高いパフォーマンスを実現
じつはマネをすることで、モデルとなる人物の行動などを写し取るという心理的なテクニックがあります。「NLP」という心理学のモデリングという手法です。
しっかりと実施するのには、かなり細かな手順が必要ですが、その全体像を簡単にまとめると、手に入れたいパフォーマンスのモデルを決め、頭でモデルと一体化しながら、五感で感じたことなどを言語化していき、モデルのパフォーマンスを自身で再現できるようにするといったものです。
もともと「学ぶ」の語源は「まねる」とも言われており、細部までマネていくことで高いパフォーマンスを実現できること自体は、昔から知られていることなのかもしれません。
参考:『脳がシビれる心理学』妹尾武治(実業之日本社)