仕事の依頼が多い人は能力が高くて、地位も高い人だと思っていませんか? たしかに現実にはそんな場面も多いでしょう。しかし心理学実験では、地位や能力の高い人が有利とも言えないことが分かっています。もしかしたら“できる人”を演じてきたのは、間違いだったかもしれませんよ!?
- 人はあまりに地位の高い相手には援助を求めない
- ウィリアムズによる社会的抑制の実験
- 仕事のできすぎは敬遠されるかも!?
- たまには相手にとっての鎧を脱いでみるのも効果的
人はあまりに地位の高い相手には援助を求めない
もしもスティーブ・ジョブズが生きていて、あなたがなぜかジョブズの連絡先を知っていて、手持ちのアイフォンが壊れたとします。このとき、あなたはジョブズに電話しますか?いや、遠慮してカスタマーセンターにコールしますよね。その程度で忙しいジョブズの手を煩わせてはいけません。
また、野球の練習場にたまたま王ソフトバンク球団会長が現れ、一緒に地元球団の二軍選手がいたら、どちらにバッティング練習を依頼するでしょうか。「ぜひ王会長に!」と思っても、ぐっとこらえて二軍の選手に声をかける人のほうが多いと思われます。
このように、人はあまりに地位の高い相手には援助を求めないということが、人々の実感としても、心理学的理論としても判明しています。心理実験によって具体的に証明した人物がいました。
ウィリアムズによる社会的抑制の実験
イギリスの心理学者であるウィリアムズは、援助要請に対する抑制の心理について、ある実験を行いました。実験参加者がパソコンへの入力作業を行っていて、不意にパソコンが故障したとき、実験者に援助を求めるまでの時間を測定したのです。このとき、参加者を二つのグループに分け、それぞれに外見の異なる実験者を紹介しました。
一方のグループには、実験者として社会的地位の高そうな身なりをした紳士を「研究所の所員で、高い地位の者」と紹介しました。そしてもう一方のグループには、ラフな格好をした実験者を「実験のお手伝いさんです」と紹介したのです。
結局、参加者がヘルプを言い出すまでの時間は、「お偉いさん」が実験者としてついているときよりも、「お手伝いさん」がついているときのほうが早いという結果が出ました。この結果は、ウィリアムズの「援助者の勢力(地位など)が大きい方が、援助を抑制する心理効果がある」という理論を裏付けるものでした。
仕事のできすぎは敬遠されるかも!?
「本当はあの人に頼れば一発で解決するんだろうけれど、何か気が引けるんだよな……」と思った経験はありませんか。こんなときは抑制が効いているものと思われます。その対象になる人は、あまりに社会的地位が高い人、ぐっと目上の人、あたりではないでしょうか。じつは先程紹介した実験では、大人数の集団(勢力が大きい)にも援助を要請しにくいといった結果が出ています。仕事で考えるなら、大会社の社員などに当たるでしょうか。
つまり「この程度のことを、あの人に頼むなんて……」と気が引けてしまう相手には、声を掛けにくい心理が働きやすくなるのです。結果、ビジネスチャンスを失うことにも。
一方で、「後輩だから」「気安く話ができそうだから」と思うと、安く仕事をしてもらおうと気軽に相談しがちです。結果的に仕事のチャンスがまわってくるということになります。もちろん条件が悪かったり、単価が安かったりする可能性もあるのですが……。とはいえ、仕事のきっかけを探しているときは、あえて自分を小さく見せたほうが良いかもしれません。
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たまには相手にとっての鎧を脱いでみるのも効果的
「立派な肩書を持っているのに」「難しい試験に通って、素晴らしい資格を持っているのに」「輝かしい実績があるのに」なぜか仕事が来ない……と悩んでいる人は、自分が他人にとってとてつもなく大きく見えているのでは、と考えてみましょう。だとすると、大きく見えている鎧を脱いで接してみると、きっと発見があります。
参考:『実験心理学 なぜ心理学者は人の心がわかるのか?』