誘惑を避けて正しい習慣を維持するための2つの原則と、4つのポイントを今年発表された行動科学理論から紹介します。ついつい誘惑に負けてしまいがちな人にお勧めの方法です。
- 意志力だけでの目標達成は難しい
- ナッジ成功2つの原則
- セルフナッジ作成の4つのポイント
意志力だけでの目標達成は難しい
誘惑に絶対に負けないという人は、ほとんどいないでしょう。
いつもお菓子を我慢できるのに、疲れているときについ買ってしまい、食べたらダイエットなんてどうでもいいと感じ始めて、結局ダイエット前以上に体重に!
もしかすると、過去のこんな体験を思い出した人もいるかもしれません。
じつはこうした誘惑に負ける行動は、心理学で解明されています。
まず重要なのは、意志力は使えば使うほど誘惑に負けてしまうということ。そして、いったん目標に反する行動を取ると『倒れない計画術』(DaiGo 著/河出書房新社)などでも紹介されている「どうにでもなれ効果(The What-The-Hell Effect)」によって、すべてを放り出したくなってしまうこと。
つまり私たちが誘惑に負けないためには、意志力を強くするのではなく、意志力を維持できる環境をつくり上げることが大事なのです。
ナッジ成功2つの原則
さて、ここからが本題です。
マックスプランク人間開発研究所のRalph Hertwigと、ヘルシンキ大学のSamuli Reijulaが発表した論文は、セルフナッジに関するものです。このナッジとは、直訳すると「ひじで軽く突く」といった意味ですが、行動経済学の用語してちょっとしたきっかけで行動を変える手法を指します。
ナッジで有名なのは、学食で目の高さにフルーツを置き、ケーキやプリンを奥の角に置いたら、多くの学生がフルーツを取るようになったというものです。誰に強制されたというわけでもなく、自然に行動が変わってしまっているのがポイントです。
さて、このナッジを成功させるためには、次のような2つの原則があります。
①選択する環境を理解すること
②その環境を変えること
つまり先程の例で言えば、学食でメニュー選択を、学生がどんな環境で行っているのか理解し、その環境を変えたから結果が出ているのです。この2つを理解すると、自分のためのナッジ「セルフナッジ」を自ら考案することができます。自らの環境に合わせて、誘惑に負けにくい状況をつくることができるというわけです。
セルフナッジ作成の4つのポイント
さらにRalph HertwigとSamuli Reijulaは、セルフナッジを作り出すのにヒントとなる4つのポイントも解説しています。
一つずつ解説していきましょう。
①リマインダーや張り紙を活用する
これは目標を定期的に思い出すといった使い方もありますが、行動を変えるルールを思い出すという使い方もあるようです。
例えば、車のドアハンドルに「左手で開けること」とうメモを張り付けておけば、右ハンドルの場合、降車時に常に後ろを確認してからドアを開けることができます。これでバイクや自転車の追突を避けることができるというわけです。
ダイエットをしたいなら、冷蔵庫に目標体重を貼っておくといった方法もあるでしょう。ネットサーフィンで資格の勉強が進まないなら、PCのスイッチに資格取得に必要な点数を貼っておくといった方法もあります。
思い出すことで誘惑を避けて、目標に近づけるようにしてみましょう。
②別のフレーミングで考える
運動が続かない人は、運動が面倒くさく、ツライと感じてしまうからでしょう。このフレーミングを変えることで、セルフナッジをつくることができるようです。例えば、寿命を延ばす手段として運動を捉えるといったことも可能です。動いた分だけ、寿命が延びていくイメージを持てば、取り掛かりも楽になるでしょう。
勉強なども頭脳がどんどん強化されていくとフレームで考えると、ただ苦しい行動ではなくなります。意志力を必要するような行動を、別のフレーミングでとらえられるのか考えてみてください。
③誘惑を遠ざける
誘惑を遠ざける環境を設定します。ダイエットなら手の届くところにお菓子をおかないといった対策がありますが、さらに進めてお菓子を買ってしまう店に入らない、店のある道を通らないといった方法を選択することもできます。
目標の「敵」がすぐ手に入るから、ついつい誘惑に負けてしまうのです。そこまでの道のりを長くすれば、面倒臭くて手も伸びなくなるでしょう。ネットサーフィンなどを止めたければ、自宅のWi-Fiを切って置くだけでもワンクッションおくことができます。
④公言して圧力をかける
目標を遠ざける行動を取ったら罰金として寄付する。そんなことを公言すれば、ちょっとした自分への圧力になるでしょう。誘惑に負けるとちょっと痛いと感じることを公言すれば、自ずと自制心が働きます。
ナッジは自分の環境に合わせて作り出すことができます。自分の目標を再確認して、楽しみながらナッジをつくってみるのもいいかもしれませんね。
心理学に興味のある方はこちらもご覧ください。
参考:「Self-nudging and the citizen choice architect」(SAMULI REIJULA and RALPH HERTWIG)
「Using self-nudging to make better choices」(『Max-Planck-Gesellschaft』)