あおり運転を繰り返す理由を心理学から考える

あおり運転への批判が強まっています。また激高する容疑者の様子が映像で流れたせいもあるでしょう。あおり運転する人の心理にも注目が集まっているようです。そこで危険運転をする心理に関連する論文を紹介します。

  1. 何度もあおり運転を繰り返す理由
  2. 自動的にあおり運転を始めてしまう
  3. ハンドルを握ると最悪の人物
  4. トラックにあおり運転をしかける無謀さ
  5. 一番の対策は警察の取り締まり!?

何度もあおり運転を繰り返す理由

10月18日、常磐自動車道であおり運転をし、被害者の車を止めて殴りつけた男性が同乗者の女性とともに逮捕されました。彼は同様の行為を各地で行っていたことがわかっています。

じつはあおり運転で逮捕された人物が、事件以外でも同じような行為を繰り返していた例がほかにもあります。東名高速道路であおり運転の末に追い越し車線で被害者の車を止め、その結果、後ろからトラックが衝突し夫婦が亡くなった事件の被告は、この事故の1ヵ月前にも同様の妨害走行を3件起こしています。

ハンドルを握って腹が立つとあおり運転をしてしまうなど、迷惑このうえない行為ですが、そもそもどうして、こんな行動を取ってしまうのでしょうか?

自動的にあおり運転を始めてしまう

追手門学院大学の東正訓教授は、「危険な運転行動に関わるパーソナリティ要因の研究文献展望―特に態度、習慣、衝動性に着目して」という論文で、興味深い話を書いています。 東教授は、最近の神経科学の成果として度重なる行動が習慣化されると、

「意識的な制止や望ましい目標達成のための行動への切り替えが困難」

になるのだそうです。

そして

「悪習慣の抑止を困難にするのは、習慣が持つ『自動性(automaticity)』および自動性を引き出す『手がかり(cue)』の存在のためである」

と書き、次のようなわかりやすい具体例を示しています。

「例えば速度超過運転の場合、スピード違反を誘発する環境条件(遅刻、交通量の少ない直線路など)は日常の反復実践によって連合学習され、習慣化される。そして、環境条件などの手がかりがそろうと、速度超過運転は熟慮をともなわず、いわば自動的に実行されやすくなる」

この理論で考えると、事故が起こすようなあおり運転をする人は、「邪魔だと感じる車が前にいる」「自分に敵意を向けたと感じさせる車がいる」といった腹の立つ条件が現れると、自動的に「あおり運転」を始めてしまうのかもしれません。

ハンドルを握ると最悪の人物

今回逮捕された容疑者の行動について、8月20日放送のフジテレビ系「バイキング」でタレントのヒロミが、「女が先に行って、様子を見ている。(被害の車から)どんな人が出てくるか分からないのに、この子の方が根性ある気がする」と指摘しています。「根性ある」かどうかはともかく、激高したかに見える男性容疑者が、やや時間を置いて車から降りたのは間違いないようです。もちろん右車線の車をやり過ごす時間などもあるでしょうが、後ろの人物の様子を伺うぐらいの冷静さは持っていたのかもしれません。 この容疑者がハンドルを握ると自動的に豹変する可能性については、 『週刊朝日』[8月18日 も報じています。仕事で知人と会った喫茶店の駐車場から、自分の車を出そうとした同容疑者の強引な割込みで事故が起きそうになって激高。自分のポルシェから飛び出して、すごい剣幕で怒鳴っている容疑者を見て必死になだめた知人は、次のように証言しているのです。

「仕事の話をしている時とは、豹変。その時、自分のポルシェが軽(乗用車)に追い抜かれると腹が立つとか言っていた。ハンドルを握ると人格が変わるという話がありますが、宮崎容疑者はまさにそんな感じでした」

容疑者の恫喝行為は運転しているときだけではなかったという報道も出ていますが、少なくとも運転しているときに非常に危険な人物だったことは間違いないようです。

トラックにあおり運転をしかける無謀さ

この容疑者とされるあおり運転の動画には、トラックに仕掛けたものもあります。トラック運転手は、容疑者の車が急に割り込んできたので急ブレーキをかけたと証言しており、一つ間違えば大事故になっていたでしょう。そのときケガをする可能性が高いのは、車の大きさを考えても容疑者の方でしょう。しかも、この行為は逮捕時に「手つないで」と呼びかけた女性を乗せて行っていたかもしれないのです。

先述の東教授によれば、行動が習慣化すると、「リスクに対する熟慮もなく」なってしまうとのこと。ハンドルを握ると自動的に攻撃的になっていたと考えれば、トラックにあおり運転を仕掛ける無謀さも説明はできるでしょう。

一番の対策は警察の取り締まり!?

では、こうした自動的に習慣化した行動に、どのような対策があるのでしょうか? それは習慣を導き出す「手がかり」を除去するのが効果的とのことです。例えば、スピード違反なら交通量の少ない直線道路に信号を設置するといった対策です。直線で見晴らしがよく、前を遮るものがないから飛ばそうという「手がかり」を、信号によって「除去」することで、無意識にアクセルを踏む行動を防ぐというわけです。

同様の対策を「あおり運転」で考えれば、危険なドライバーになるべく近づかず、「あおり運転」を誘発するような行動を取らないといった対策も考えられます。しかし自身の非常識な運転をきっかけに、勝手に絡んでくるドライバーに対しては、対策の立てようがありません。

結局、あおり運転が習慣化しているドライバーを警察が取り締まっていくといった地道な方法しかないのかもしれません。 そうなると、悪質なドライバーへの対策としてドライブレコーダーを付けて証拠を確保し、停車させられても窓やカギを閉めて警察に電話するといった自衛手段が大切になってくるのでしょう。

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