会社の施設で起こした事故で担当者が逮捕されると聞くと、ちょっと驚きませんか?でも実際に逮捕された例もあるのです。どんなケースだと刑事罰となるのか、お教えします。
- 3人全員が有罪に
- ポイントは「予見可能性」
- 管理担当者は事故を予測できないと判断
- 安全への配慮は最大限に
3人全員が有罪に
7月19日、アクリル酸貯蔵タンク爆発で37人が死傷した事故(2012年)で、業務上過失致死傷などの罪に問われた製造担当課長に、禁固2年、執行猶予3年の判決が下されました。また、同じ会社の主任技術者に禁固1年6ヶ月、当時のアシスタントリーダーには禁固8ヶ月執行猶予3年が言い渡されています。
この事故は、引火性のアクリル酸を高温で滞留させた結果として起きたものです。判決では、「危険物を貯蔵するタンクに対する安全管理意識が希薄」と、被告人の意識を批判し、「爆発の危険性を(消防隊に)的確に伝えられず、被害が拡大した」と断じました。
また、会社側の体制についても問題としたものの、事故に関連した3被告全員に有罪判決を下すなど、担当者の責任を厳しく問う内容となりました。
ポイントは「予見可能性」
会社で事故が起きたときの担当者の刑事責任は、予見可能性が大きなポイントになります。簡単に言えば、担当者が事故を予測でき、未然に防げたのかどうかが争われるわけです。
このようなケースで、よく持ち出されるのが、2007年6月に起きた渋谷のスパ施設の爆発事故です。この事故では、施設の設計を担った大手ゼネコンの社員に有罪判決が、運営会社の保守管理責任者には無罪判決が出されています。
この事故は、温泉水から分離したメタンガスが水抜き作業がされていないパイプで詰まり、機械室内に滞留し爆発したものです。有罪判決を受けた被告は、設計上、水抜きが不可欠であったのを知っていたのに、管理会社側にしっかり説明しなかった点から過失責任を問われました。
つまり設計そのものが、あるいは業種によっては製造そのものに問題がなくても、怠ると重大な事故を発生させる可能性のある項目を説明しないことが罪に問われたことになります。
管理担当者は事故を予測できないと判断
一方、管理会社の社員を起訴した検察側は、「情報収集義務がある」と主張していました。つまり建設会社が適切な情報を与えていなくても、事故を予見できたと主張したのです。しかし裁判官は、この検察側主張を退け、「事故は予測できず、管理を怠った過失はない」と断じました。
この二つの判断に大きな影響を与えているのは、事故原因に対する専門知識があったのかどうかということでした。専門家を信頼して言う通りに施設を管理していたのであれば、事故は防ぎようがないだろうという理屈です。
安全への配慮は最大限に
ただ、事件ごとに異なるものの、有罪と判断されるのは厳密に事故を予測できるケースだけではないことも覚えておきましょう。例えば、近畿鉄道東大阪線の生駒トンネル内で起きた火災(1987年)について、最高裁は予見の対象について次のように述べています。「電流が大地に流されず本来流れるべきでない部分に長時間にわたり流れ続けることによって火災の発生に至る可能性があること」。事故の原因となる「炭化導電路の形成」という現象を予見できなくとも、事故は未然に防げた、と裁判所は判断したわけです。
つまり企業内で起きた事故であっても、担当者の責任は厳しく問われるということです。設計や製造はもちろん危険性を伝えていないこともアウト。そして事故原因を厳密には予測できなくとも、ときに責任から逃れられないのです。
大きな事故につながる製品やサービスを提供する人は、たとえ会社の体制自体に問題があっても、しっかりと安全を保てるようにする必要があるのです。