説得力のある資料を作るのに数字は欠かせません。でも、客観的なはずの数値が、意外なほど主観的に選択されていることを知っていますか?ビジネスで使える数字の「印象」について紹介します。
- 信憑性の高い数字って
- 効果的な端数は国や商品で変わる
- とらえやすい数字に置き換える
とらえやすい数字に置き換える
まず最初に紹介するのは端数効果です。
グラフなどの資料などで、小数点以下の数字が入っているのを見たことありませんか?59.7%といった数字は、最後の7を四捨五入すれば60%になります。ところが信憑性を上げたいなら、あえて端数は残しておいた方がよいそうです。
『本当は怖い59の心理実験』(おもしろ心理学会 編/青春出版社)によれば、こうした端数が入っていることで「リアリティが増して信憑性は上がる」とのこと。
たしかにプレゼンなどの資料は、端数をアピールすることで調査そのものの信頼性が増すように感じますね。
効果的な端数は国や商品で変わる
端数効果で最も有名なのは、商品の価格設定です。
こちらも『本当は怖い59の心理実験』(おもしろ心理学会 編/青春出版社)から、いくつかの実験を紹介しましょう。
あるブラウスを3つのカタログで、10.00ドル、9.99ドル、9.88ドルに分けました。そのカタログを各3万人に送ったところ、10.00ドルと9.88ドルの売り上げはさほど変わらなかったものの、9.99ドルの売り上げが大きいことがわかったのです。
端数効果は国によって違うことも明らかになっています。これは米国の実験ですので、端数は9が最も効果があったようです。ちなみに日本では、端数を8に揃えることが多いようです。
端数効果については、さらに興味深い実験があります。
1着34ドルの洋服を39ドルに値上げして売ったところ、それまでの3倍の売り上げを記録したというのです。この場合の端数は、4と9。5ドルも値上げしたのに、お得感の出た39ドルが売れたというわけです。
ただし、この効果は日用品のときのみ有効です。ビジネススクールのINSEADとNanyang Business Schoolが行った研究結果によれば、シャンパンなど高級な嗜好品は、キリのいい40ドルといった数値の方の売り上げがよかったという実験もあります。
とらえやすい数字に置き換える
結局、人が数字で判断するときは、数字の印象につられてしまうのです。実際は大きさがほとんど変わらない数字であっても、印象が違えば行動も変わってしまうのです。
また単数効果と違い、数字の大きさを変えずに、印象を変えることに成功するケースもあります。
スティーブ・ジョブズがiPodを発売したときの有名なスピーチに次のようなものがあります。
「今や、1日に500万曲が売れているんだ。信じられないだろう?それって、毎日毎日、毎時間の毎分の毎秒58曲売れてるってことだ」
ここで重要なのは、500万曲というとらえきれない数字が、58曲という分かりやすい数字に置き換わったことです。よく膨大な土地の大きさを、東京ドーム○個分という言い方をしますが、人が感覚的にとらえられるところまで数字の単位を下げていくというのは、プレゼンなどではとても有効な方法です。
大きすぎる数字がいかにとらえにくいのか、一つ例を示しておきましょう。
フォーブスの2016年版の世界長者番付のトップ3は以下のような資産額でした。
ビル・ゲイツ氏(マイクロソフト共同創業者) 750億ドル 約8兆250億円
アマンシオ・オルテガ氏(ZARA創業者) 670億ドル 約7兆1690億円
ウォーレン・バフェット氏(投資家) 608億ドル 約6兆5056億円
正直、1位と2位の差が80億ドルあったとしても、たいして気にならないほどの数字です。資産1億円超えを達成した投資家を「億り人」と呼んだりしますが、1億という数字でさえ実感のわかない数字でしょう。
他人の資産なら問題ありませんが、実際に商品を購入するとなると、実感のわかない数字では心が動きません。
数字の持つ印象をどうやって利用するのか考えて、数字を提示してみてはいかがでしょう。
参考
『本当は怖い59の心理実験』(おもしろ心理学会 編/青春出版社)