「サブスク」って聞いたことありますか?一般的には「定額制のサービス」を指します。音楽や動画の配信などで利用している人も多いかもしれません。しかしサブスクは本当にお得なのでしょうか?心理学の視点から解説します。
- どんどん広がるサブスク市場
- サブスクが引き起こす思考と行動って
どんどん広がるサブスク市場
サブスクリプションサービスは、定額料金で一定期間サービスを受けられる商品です。多くの人に馴染みなのが、Webを利用した動画や音楽の配信サービスでしょう。定額で映画やドラマが見放題といったサービスを、「ステイホーム」の期間中に楽しんだ人も少なくないかもしれません。
サブスクは、2018年度には5627億円の市場規模を誇り、2023年には8624億円まで拡大するとも言われています。現状でもサービスは多岐にわたっており、野菜などの食品、コスメ、自動車、航空券などにも広がっています。
消費者にとっては、導入コストが安くなり、必要な時期だけ利用できるメリットがあり、企業にとっても売り上げが平準化し、収入が安定するなどの利点があります。一見、いいことだらけのように感じますが、心理学的に見るとちょっと注意を必要とするサービスなのです。
サブスクが引き起こす思考と行動って
費用が同じであっても使用した時間によって料金が加算される従量制と一定料金を支払えば制限なく接続できる定額制だと、人は定額制を好む傾向にあります。これは「定額料金バイアス」と呼ばれます。「バイアス」は「思考や判断に特定の偏り」を指すので、「定額料金バイアス」は定額料金に関する偏った考え方といった意味になります。
では、人は定額制をどんな風にとらえ、どんな行動を取りがちなのでしょうか?
①得だと思いがち
定額制でないときに、行動やどれぐらいの料金を支払っているのかわからない消費者も少なくありません。例えば雑誌読み放題のサービスと契約するなら、サブスクに契約する前にどれぐらいの雑誌を買っていたのかを比較する必要があるでしょう。
サブスクを利用すれば、支払い額が誰も安くなるという思いは、「定額料金バイアス」を引き起こす原因と言われています。
②サービスを使いがち
定額支払いになると、サービスを利用する機会が増えがちになるようです。せっかく払っているのだから、どんどん映画を観ようといった行動は、その典型でしょう。しかし、そのサービスが自分の生活に本当に必要なのかは、あまり考慮されません。
例えばコスメのサブスクであれば、何が入っているのかわからないドキドキ感と引き換えに、使いきれない、あるいは好みではない商品を抱える可能性が増してしまいます。商品購入と支払いのプロセスを制御できないことで起きるマイナスもあるというわけです。
定額になると必要以上にサービスを使うようになる心理も、「定額料金バイアス」を引き起こす要因と言われています。
③定額制の方が不安もないと感じがち
2008年に発表されたインターネットの定額制料金の調査は、個別の料金について気にする必要がないからといった理由で、定額制を選ぶ人が多かったと報告しています。
使いすぎへの不安が定額制でなくなるというわけです。しかし、こうした不安がなくなることで、必要ない分まで使ってしまう人が多くなるのです。
④サービスで活用できると思いがち
スポーツクラブなどで定額制を契約したときは、これで毎日通おうと多く人が思うものです。しかし実際には通う時間がなかったりするものです。
理想の生活を夢見てサブスクを活用すると、ほとんど使えないサービスに定額料金を支払うことになります。サブスクのサービスを契機として、生活習慣を変えようと考えるのは危険なのかもしれません。
⑤サービスに飽きがち
定額制にして過剰な商品を受け取るようになると、自分にとっての価値はどうしても下がっていきます。限られたお金の中でレンタルした映画と、とりあえず観て面白くなければ止めればいいと思っている映画では、見た感想も違ってくるでしょう。選び抜いた化粧品と、毎月自動的に届く化粧品で価値は違っているかもしれません。
ライス大学のUtpal Dholakia教授は、「サブスクのメリットは多くの消費者によって幻想だ」と語っています。
もちろん導入コストを抑えて、見たこともない商品を試せるという意味では大きな魅力を持つサービスですが、契約する前に全体を見直し、自分にとってのメリットやデメリットを考える必要はあるかもしれません。
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参考:「サブスクリプション価格が消費者行動に与える影響」(茂木雅祥、守口剛)/「情報通信および交友サービスにおける定額料金 プリファレンスの実証的分析」(三友仁志、大塚時雄、永井研、中場公教)「Do Shoppers Benefit From Buying With Subscriptions?」(Utpal Dholakia Ph.D./『Psychology Today』)「Mental Money: The Psychology of Subscription Payment Options」(Alain Samson, Ph.D./『behavioraleconomics.com』)