脳科学の進歩は素晴らしいものです。思いもしなかったことが脳科学によって証明されるようになりました。だからこそ気を付けておきたいことも!脳科学の発達とその問題について報告します。
- 政治思想も脳MRIで判明
- 脳に磁気を当てれば絵がうまくなる
- 文章でも脳の画像でも……
政治思想も脳MRIで判明
近年、脳科学は驚くほどの発達を遂げています。思いもしなかった結果が、脳科学から導き出されています。そのいくつかを紹介しましょう。
2011年に米国のサセックス大学の金井良太博士は、脳の特定部位(「Anterior Cingulate」と呼ばれる部分の白質量)の大きさと政治的な思想に関係があることを発表しています。保守的であればあるほど、その脳の部位が小さくなるのです。逆に右の偏桃体は、保守的であればなるほど大きくなることが発見されました。
現在、病気などの発見に使われている脳MRIが、政治信条や性格特性の診断として使われる日がくるかもしれません。
脳に磁気を当てれば絵がうまくなる
強い磁気を脳の一部に当ててその働きを一時的に抑制するTMSという装置による実験も、脳科学の面白さを感じさせるものです。シドニー大学のスナイダーの論文によれば、TMSを左前頭葉に当てると、一時的に絵がうまくなるというのです。
実際に論文に掲載された犬の絵は、構図や描き出した犬のポーズまで違う仕上がりになっています。脳の一部を抑制すれば絵がうまくなるということが、完全に信じられる出来ばえでした。
さらにカナダの認知脳科学者であるオーウェンが『サイエンス』に掲載した論文では、「植物状態」にある患者の脳の活動を調べると、「テニスをしているところを想像してください」と話しかけると、健常者と同じような脳の部分に反応があることがわかりました。
この実験結果は、将来的には植物状態にある患者さんとコミュニケーションが取れる可能性を示したともいえるでしょう。
文章でも脳の画像でも……
どの論文も、脳科学が新しい世界の扉を開いたように感じるのではないでしょうか。
じつはこうした脳科学の輝かしい成果が、私たちの心理にも影響を与えているという論文も発表されています。
さて、問題です。次の文章のうちどちらが信用できると感じますか?
「(前略)この人間の特性は、他者の知識を利用しながら他者の視点に立つことができないという人間のメカニズムで説明できる」
「(前略)MRIが示すところによると、この人間の特性は前頭葉野を活性化させず、他者の知識を利用しながら他者の視点に立つことができない、という人間の認知メカニズムによって説明できる」
(『脳がシビれる心理学』妹尾武治 著/実業之日本社)
じつは話の趣旨はいっさい変わっていない2つの文章ですが、下の文章には脳科学と関係あるようにされています。ペンシルバニア大学のワイズバークによれば、論理的には脳科学によって補強されたわけでもないのに、脳科学的な加筆があるだけで実験参加者は説明の妥当性が高まると答えたのです。
じつは同様の実験は、ほかの方法でも報告されています。
棒グラフと脳画像の濃淡という2つの画像で数値の違いを示したところ、脳画像の方が説得力があると感じたことが明らかになりました。
つまり脳科学とまったく関係のない問題であっても、脳科学と関係があるように説明されると、私たちは説得されやすくなってしまうというわけです。「脳を育てる」「脳に良い」という宣伝などは、もしかすると無意識にプラスの評価を与える可能性があるのです。
ちょっと注意すべきかもしれませんね。