出産後、仕事復帰する女性社員にどんな仕事を割り振るべきか悩む経営者も、ワーキングマザーと一緒に働くとき気を遣う社員も、考えていることは一つです。そう、「育休復帰後の女性は仕事についてどう考えてるのか?」。仕事復帰したワーママを取材して、わかったことをお伝えします。
- 産後、仕事復帰した女性が直面する「マミートラック」
- 周りで働く人が感じてしまう「ぶら下がりワーママ」
- 産後女性は語る!「働きたい」と「働けない」を行ったり来たりの恐怖
- 思い切った配置換えが功を奏す
- 焦らず、希望は捨てずに待つ
- 周囲もワーママを見守り、活躍のタイミングを見計らって
産後、仕事復帰した女性が直面する「マミートラック」
産前は第一線でバリバリ働いていたにもかかわらず、産後に仕事復帰したら、以前とは違う部署へ回され、出世コースから外れてしまう……。ワーキングマザーが直面するそんな状況は、「マミートラック」と呼ばれます。
「マミートラック」の「トラック」は、陸上競技のレースで使われるコースのことです。出世コースである「ファストトラック」とは別に、ワーキングマザー用のコースが用意され、それに永久に乗せられてしまうというイメージから生まれた言葉です。
産後復帰した女性をファストトラックから外さざるを得ない経営者にも、言い分があることでしょう。子育てのためにたびたび業務を抜けられては、負荷の高い業務を任せられないからです。復帰してくる女性社員のために、マミートラックをつくる会社もあるほどで、会社のため、復帰女性のためを考えた最適解がマミートラックだったという経営者は多いでしょう。
周りで働く人が感じてしまう「ぶら下がりワーママ」
一方で、ワーキングマザーの周りで働く人から見ると、「マミートラック、やむを得ず」という感想を持たざるを得ない現実もあります。復帰してきたワーママの仕事ぶりを見ると、どうも「ぶら下がり社員にしか見えない」と思えてしまう。そんな状況から、「ぶら下がりワーママ」という言葉が生まれています。
「ぶら下がりワーママ」とは、「子育てが大変だから」を印籠に、与えられた仕事だけをこなし、意欲に欠けるぶら下がり社員のような態度を貫くワーママのことです。「以前はプロジェクトの企画をバンバン出していたのに、産後は自分から手を挙げなくなった」「必要最低限の会話しかせず、コミュニケーションをして人間関係を築こうという姿勢が感じられない」と、産前と産後の変貌ぶりに驚く同僚もいるようです。
ワーママたちにしてみれば、チームの足を引っ張るかもしれないから大きな仕事はできない、働ける時間が限られているから無駄話はしないといった事情があります。さらに出世の見込みのないマミートラックに乗せられれば、働く意欲が失せるのも仕方がないことなのかもしれません。こうして「ぶら下がりワーママ」は生まれてしまうのです。
産後女性は語る!「働きたい」と「働けない」を行ったり来たりの恐怖
実は筆者もワーママの一人であり、息子を生後5ヶ月の頃から保育園に預けて仕事をしています。その縁で、周囲には数人の「ワーママ仲間」がいます。ある日、話をしていると「私たち、『働きたい』と『働けない』を行ったり来たりしているよね」という言葉が出てきました。
一昨年、長女を出産したOさんは、いわゆるキャリアウーマンです。復帰したばかりの昨年は、自ら大きな仕事に手を挙げることを遠慮していましたが、つい最近「娘も保育園に慣れたし、熱で休むことも少なくなった」と、ボリュームの多い仕事を自ら引き受けました。
すると、仕事を引き受けた次の日に、長女のインフルエンザが発覚。インフルエンザは、回復したとしても登園停止期間があり、長く会社を休まざるを得ません。会社の規定により持ち帰り仕事は許されていないため、泣く泣く仕事を手放すことになりました。「上司にも、引き継ぎの同僚にも迷惑をかけた」と、自分を責める気持ちが今でもあるとのことです。
また、4歳と2歳の男の子がいるKさんは、「朝5時半に起きても仕事の準備が間に合わず、車に着替えと化粧道具を置いている」と明かしました。4歳の長男が登園時にケガをして、病院に連れていくため仕事を休まざるを得なくなったときもあるといいます。その日は、やっと任された新規顧客との打ち合わせが行われる予定でした。 働きたい気持ちはあるけれど、ある日突然、働けなくなる。そんな恐怖が日常に潜んでいるのが、ワーママなのです。意欲と恐怖のさなかで、今日も戦っているのです。
思い切った配置換えが功を奏す
育児プチMBAの代表を務める国保祥子氏は、著書『働く女子のキャリア格差』の中で、ワーママが働く現場で問題が起こったとき、「女性が悪いのではなく、こうした女性が問題になるような職場環境に真の原因がある」と説きます。例えば在宅やカフェでの作業を可能にする、監督役や社員育成役として経験を後進に伝えるといった環境整備や配置換えを行えば、本人も周囲も納得のパフォーマンスを発揮できるはずというのです。
確かに、産前に実績を積んだワーママは、知識と経験の塊です。育成役として新人を手ほどきする実力を備えている人は多いでしょう。実務を行うよりも、監督役のほうが時間に融通が利く可能性は高くなります。
「気力十分、利発でまじめな人材が多い20代女子は、結婚や出産の経験をする前に、男子よりも先に出世させてしまうほうがよい。管理職のほうがフレキシブルに働けるから、産後も復帰しやすいだろう」という意見は、他の専門家からも出ています。マミートラックではなく、むしろ高速化したファストトラックに乗ってもらうというわけです。
焦らず、希望は捨てずに待つ
また、マミートラックに乗ったと感じていても、「現状で満足していない、もっと期待をかけてほしい」という声を上げることをやめないでほしいと国保氏は言います。抗うことをやめれば、元に戻る手段は断たれるためです。希望を捨ててしまえば、「ぶら下がりワーママ」と陰口をたたかれる日々が待っています。そして、そこから浮上するのは難しいでしょう。
多くのワーママや、そして周囲に忘れてほしくないのが「子どもはそのうち、手が離れる」ということです。小学校にあがれば、入所できるかどうかという問題はありながらも、学童保育が始まります。塾やスポーツクラブに通い、ときには親より帰宅が遅くなる子もいるほどです。
学校から塾までの送り迎えなどが必要になるとしても、その間「ちょっと出てきます」と言えたり、「あとは在宅で作業させてください」と言えたりする環境が作られれば、勤務内容の縛りはぐっと減るでしょう。夫の協力や、民間の送迎シッターを活用することで、「ママがいなければならない」状況を減らすこともできるかもしれません。
周囲もワーママを見守り、活躍のタイミングを見計らって
子どもが小学校に入るまで7年。働き盛りのキャリアにとっては辛い数字かもしれませんが、やる気はあくまで示しつつ、職場の人間関係を大事にしながらのりきれば、「これを任せてもいい?」という上司の一声に「もちろんです」と言える瞬間が、きっと来るかもしれません。
そして周囲も、悪戦苦闘しながら苦境を乗り越えようとする本人を見守り、もう一度活躍できるときを待つことが大事です。人材不足の今、子育ての数年をワーママと一緒に乗り切る会社こそが、未来を作っていけるのではないでしょうか。
子育てをしながら働いている女性への支援に興味のある方はこちらをご覧ください。
参考:『働く女子のキャリア格差』国保祥子、ちくま新書