部下と良好な関係を築きたい。でも、踏み込みすぎて「おせっかい」と思われたり、「ハラスメントですよ」と言われたりするのも怖い。そんな上司のために、部下とのほどよい距離感の取り方についてお伝えします。
- 「親しみやすさ」と「馴れ馴れしさ」の違い
- 「返報性の法則」を使って、まずは自分から本音を出す
- 丁寧な言葉遣いを心がける
- 最後に注意!部下への「甘えすぎ」は信頼をなくす
「親しみやすさ」と「馴れ馴れしさ」の違い
部下と仕事について何でも言い合えたら。そのためには、親しみやすい上司になるのが近道でしょう。でも、「親しみやすさ」と「馴れ馴れしさ」の壁は、紙一枚です。一歩間違えば、「どうしてこの上司はプライベートに踏み込んでくるのだろう」と思われてしまうかもしれません。
一体、「親しみやすさ」と「馴れ馴れしさ」の違いは、どこにあるのでしょう。全日空のグランドスタッフとして教育訓練インストラクターを務めた経験のある、コミュニケーション講師の桑野麻衣氏は、著書『部下を元気にする、上司の話し方』の中で以下のように語っています。
“……上司の立場というのは、立場や役割、報酬のことを考えても、「この上司は尊敬できる」 と信頼感が基盤にあった上で、「この上司は好感が持てる」が加わるほうが 好ましいと言え ます。そのため、仕事において信頼感や尊敬もされていない状態で、やみくもに家庭や恋愛 などのプライベートな話題ばかりしてしまうと、信頼感どころか好感まで失うことになってしまいます。……(中略)まずはお互いに仕事の話題や仕事に対する価値観を共有し、 ビジネスにおける信頼関係を構築することが最優先です。“
出典:『部下を元気にする、上司の話し方』
つまり、親しみやすさを演出する前に、上司と部下としての信頼関係を築かなければならないというわけです。では、信頼関係を獲得するためには、どんなコミュニケーションをとればよいのでしょうか。マネジメントケアリストの浅井浩一氏は、「誠実な関心」をキーワードに、こう説きます。
“コミュニケーションに高度なテクニックなど必要ありません。相手からの信頼を得たかったら、自分から話すのを我慢し、相手の話をじっくりと聞くしかありません。相手が何を感じ、何を思い、何を考えているか、誠実な関心を持って聞くのです。”
出典:『一万人のリーダーが悩んでいること』
ここで出されている「誠実な関心」とは、「相手が関心を持っている事柄に意識を傾注すること」であると浅井氏は言います。自分の話にすり替えたり、自分の意見をごり押しするのではなく、話を聞いて、話題についてのコメントにとどめる。「この人は、自分の話を聞いてくれる人だ」という印象から、信頼関係が芽生え始めるのです。
「返報性の法則」を使って、まずは自分から本音を出す
とはいえ、どんなに傾聴の姿勢を保っていても、自分から何かを話してくれる部下ばかりではありません。プライベートなことへ無理に踏み込む必要はありませんが、仕事についてどう感じているか、悩みはないかを話してもらえないとしたら、どうすればよいか。浅井氏は、「返報性の法則」を使うことを提案しています。
「返報性の法則」とは、相手から何らかの施しを受けたときに、「お返しをしなければ」と感じる心理作用を言います。この心理作用を利用して、「本音を出してもらいたければ、自分から本音を出す」を実行するのです。
“そもそも、なぜ部下と「本音で語り合いたい」と思うのか。 それは、日々の仕事についての改善したい点・気になること・要望・悩みなどをため込まず、どんどん相談してほしいと考えるからでしょう。ならばリーダーの側から「日々の仕事についての改善したい点・気になること・要望・悩み」などを部下に相談しましょう。“出典:『一万人のリーダーが悩んでいること』
あくまで開示すべきなのは、プライベートな悩みや気になることではなく、仕事についての本音であることに注意しましょう。相手の心を開きたいからと、自分の私生活をさらけ出す必要はありませんし、「突然、そんな悩みを打ち明けられても」と引いてしまう部下もいます。
丁寧な言葉遣いを心がける
部下だからといって、最初から呼び捨てにしたり、タメ口をつかったりしていませんか。もちろん、信頼関係が構築されてきたと感じたら、徐々に言葉が崩れていくこともあるでしょう。しかし、初めから言葉を崩してしまうと、部下はそれだけで「尊重されていない」「下に見られている」と感じ、壁を作ってしまう恐れがあります。
桑野麻衣氏は、上司としての言葉の使い方について、以下のように述べています。
“正しい敬語や言葉づかいを使えて、相手によっては感じ方が違うと理解した上で意識的に〝言葉を崩している〟のと、無意識のうちに〝言葉が崩れている〟のとでは大きな差があります。 そこを意識できていれば、部下との信頼関係の構築度合いによって使い分けたり、指示や依頼・指摘などのビジネスの場面と、仕事後や休憩時間における雑談の場面で使い分けるなど工夫ができます。それこそが〝馴れ馴れしい〟のではなく〝親しみやすい〟上司になる秘訣なのです。
出典:『部下を元気にする、上司の話し方』
最後に注意!部下への「甘えすぎ」は信頼をなくす
まずは仕事の上で信頼関係を築き、部下を尊重した態度を崩さずに本音を引き出す。たまには自分の本音もさらしながら、コミュニケーションを重ねていく。それができるようになれば、きっと部下と良い関係を築けるでしょう。
しかし、一度良い関係を築けたからといって気を抜いてしまうと、いったん作り上げた信頼関係が台無しになることもあります。それは、部下への「甘えすぎ」が招くことであると、浅井氏は指摘しています。
“……「リーダーが決してしてはいけない甘え」。それは「部下の責任に甘える」ことです。 チームとして目標を達成できなかったときに、「自分は100%頑張ったんだけど、部下がふがいなくて……」という態度をとる上司のなんと多いことでしょうか。…(中略)…部下に責任を転嫁するのが、リーダーとして最悪な「甘え」です。“
出典:『一万人のリーダーが悩んでいること』
部下がいつでもあなたを慕い、言葉をかけたときに笑顔で応えてくれるのは、あなたを「責任のとれる上司」として信頼しているから。いつも、それを肝に銘じて部下と接するようにしましょう。甘えは禁止!心地よい緊張感が、適切なコミュニケーションを生むのです。
上司と部下のコミュニケーションについて、さらに学びたい人はこちらをクリック。
参考:『一万人のリーダーが悩んでいること』浅井浩一、ダイヤモンド社 /『部下を元気にする、上司の話し方』桑野麻衣、クロスメディア・パブリッシング