目標達成のために、ご褒美や罰を用意したことはありますか?営業などでもインセンティブといった形で、営業職を鼓舞してきました。しかし、どんな形の罰則やごほうびが効果的なのかを知っていますか?目標を達成したい人のために、行動経済学の研究結果を報告します。
- 慈善団体への寄付が効果的な罰になる
- 恥を罰とするコミットメント契約の効果
- ガミガミ言う人を雇ってみる⁉︎
- 効果を長続きさせたいなら罰の強さに注意!
慈善団体への寄付が効果的な罰になる
営業ノルマとインセンティブは、売り上げアップに活用されてきました。しかし、どれぐらいの金額が効果的なのかは、必ずしも検証されてきませんでした。しかし行動経済学では、
「破った場合の罰や達成した場合のごほうびという裏付けを持つ約束」
であるコミットメント契約についての研究が進んでいます。それらの研究によれば、目標を達成するためのごほうびは、必ずしもお金でなくとも大丈夫なのだそうです。イェール大学教授のイアン・エアーズ教授が書いた『ヤル気の科学』では、コミットメント契約の有効性を検証しています。
イェール大学の教員ロブ・ハリスン氏は、論文を期日まで提出してできなかった学生は好きな慈善団体に強制的に寄付させるコミットメント契約を結びました。しかし効果はあったものの、5年間でかなり学生が論文を書けずに寄付を支払ったそうです。
そこで次の5年間、論文を書けなかった場合、学生の気に食わない慈善団体に寄付するようにしたところ、1人も期日に遅れなかったそうです。
「これは驚異的な結果だ――特に、ロブがこうした契約を持ち出す相手というのは、ペンを握って紙に向かうことができない(あるいは最近なら、キーボードに向かうことができない)深い心理的な傾向を示した学生だけなのだから」
と『ヤル気の科学』には書いてあります。
少しわかりにくい表現ですが、とにかく文章を書くのが苦手な学生だけにコミットメント契約を持ちかけたのに、期日に遅れる人がいなかったということでしょう。
本書によれば、銃規制支持者なら全米ライフル協会に寄付するなどの具体例が書かれています。寄付が欧米ほど一般的ではない日本でも、どうしても達成したい目標については、意見を異にする団体やあえて嫌いな組織に寄付することを公約して掲げ、その約束を守るように立会人を付けるといいのかもしれません。
確かに嫌な団体に寄付をするのは、自分が支持する団体に寄付をするよりはるかに抵抗があるので、サボりの抑止にはピッタリでしょう。
恥を罰とするコミットメント契約の効果
本書で紹介されているダイエットのコミットメント契約は、もしダイエットに失敗したら最終講義に競泳水着を着て受講するといったものです。そのほかにも失敗したら、テレビ放送で太ったビキニ姿を公開するといったものもあったそうです。
どれも効果は高かったようですが、特に
「元ボーイフレンドが全国放送で自分のビキニからはみ出した肉を見ること」
は、目標達成に強力に働いたようです。
恥を罰とする方法も、恥の設定の仕方によっては生活に取り入れられそうです。
ガミガミ言う人を雇ってみる⁉︎
恥の代わりに、約束を破るとガミガミ言う人を雇うのも、目標達成に非常に効果があったと本書に書かれています。毎日、コミットメントをチェックして、守れていなければ文句を言う契約だったそうです。
「2、3日サボっていたら口出しすることになっていた。サボり出したら、まずメールだ。それでもダメなら、電話をよこし、さらには家にまで押しかけて、ガミガミ言って約束を守らせる」
著者は1年を通じて、6回ほどメールを受け取っただけで済み、電話や自宅訪問はなかったそうです。
仕事上の目標であれば、人を雇うまでもなく、上司に監視して貰えばサボり防止になるでしょう。プライベートでも監視役をうまく設定すれば、目標達成に近づくかもしれませんね。
効果を長続きさせたいなら罰の強さに注意!
こうした情報を得ると、コミットメント契約でどんどん目標達成したくなるかもしれません。しかし生活習慣を変えようと思うなら、強すぎる罰は禁物です。
ほどほどの金額をリスクにさらしたら1年後の結果がずっとよかったということだ。300ドル契約の人も、30ドル契約の人も、1年後にはかなりリバウンドしている。でも150ドル契約の人は、1年後にはさらに1.1キロ体重が減っていた。
どうやら罰則が強ければ(罰金が多ければ)、払いたくないがために無理にでも体重を落とします。その反動が強いために、契約の期間が終わると一気に元の自堕落な生活に戻ってしまったのです。
一方、罰則が小さすぎると、そもそも生活習慣を変更にまでいたらず、目標達成がままならない。結果として太りがちな生活を保ったまま契約期間を終えてしまい、やっぱりリバウンドしてしまうようです。
契約期間内に行動を変えようと思うほど罰則が強く、なおかつその反動がないぐらいに罰則を弱くすると、生活習慣まで変えられるようです。つまり自分にとってベストな罰則の額を探し出すのが、コミットメント契約では重要になるのでしょう。
行動を変えるのにコミットメント契約が有効であることは間違いないようです。罰則の強さを調整すれば、行動を変える道具として活用できそうですね。
心理学に興味のある方はこちらもご覧ください。
参考:『ヤル気の科学』(イアン・エアーズ/文藝春秋)