メモリースティックやマウス、コーヒー豆、干物、調味料に至るまで、日常生活には「どちらを買っても結果はそう変わらないけれど、どっちがよりお得だろう?」と悩むシーンがありますよね。そんなとき、人はどんな思考過程をとるかご存知でしょうか。人間の思考のクセを知っておけば、自分にとって納得のいく選択がいつでもできるようになりますよ。解を導く2つの思考過程について解説します。
- ヒューリスティック過程とアルゴリズム過程
- ヒューリスティック過程とは
- アルゴリズム過程とは
- 「いつもの気分」で選ぶと失敗に陥るときがある
- 自分がどんな思考過程を使って解を導いたのかを意識しよう
ヒューリスティック過程とアルゴリズム過程
人の思考過程にはさまざまなものがありますが、さまざまな要素が絡み合って選択に迷う際、人には2つの思考が働くといわれます。それが、ヒューリスティック過程とアルゴリズム過程です。人はヒューリスティック過程のほうを取りがちですが、これは必ずしも正しいかいとは限りません。一方、アルゴリズム過程をとれば正しい解にたどり着くものの、とっさのときにはなかなか取れない方法です。
ヒューリスティック過程とは
ヒューリスティック過程とは、別名を近似解法といい、「正しくはないものの、限りなく正解に近い解が出せる思考過程」をいいます。例えば、「350ミリリットル198円」のみりんと、「500ミリリットル298円」のみりんがあるとき、どちらを選びますか。お得感を大事にするなら1ミリリットル当たりいくらになるのか計算したいところですが、スーパーで買い物をしていると、そこまで頭が回りませんよね。
そこで私たちは、きっとこんな風に頭を巡らせます。「500ミリリットルのみりんを買ったとして、一人暮らしで使いきれるだろうか?」「どちらの銘柄が美味しかったっけ?」「いつも値段が高めなのはどっちの銘柄?」
そして自分なりにさっさと答えを出し、そんなに時間をかけることなくどちらかを買い物かごに入れることでしょう。意外と、どちらかのみりんに「お買い得」の赤札が貼られていれば、どちらを買うかはもっと早く決められるかもしれません。ヒューリスティック過程とは、このように完璧な合理主義をとることなく、直感的、感情的に判断し、素早く解を得る方法です。
アルゴリズム過程とは
一方、アルゴリズム過程とは、きわめて合理的に解を導き出す手法をいいます。先ほどのみりんの例でいえば、速やかにスマホの計算機アプリを起動させ、どちらがお得かを計算して買い物をするのです。このように、アルゴリズム過程で出た解はいつでも正しいものの、解を得るまでに時間がかかってしまうのが特徴です。
日常生活においていつでもアルゴリズム過程を使っていたら、どんな行動もスローなものになってしまいます。よって私たちは、日常の選択においてアルゴリズム過程をめったに使いません。ヒューリスティック過程を無意識に使いながら、きわめて正解に近い解を得て行動していると、心理学では考えます。
「いつもの気分」で選ぶと失敗に陥るときがある
ただ、いつでもヒューリスティックな物の考え方にとどまっていると、思わぬ失敗をおかすことがあります。必要ないのに「この品は残り1点です」と言われて買ってしまう、「●円以上は送料無料」と知って「もう一品」を買ってしまう……。直感的な判断は、えてして不安定なものなのです。
この思考のスキをつくことで、上手な企業は商売を行っているといえるでしょう。また、極端な例になると、詐欺師などもこの直感的な思考を利用して人をだましています。ときには自分の感情的、直感的な判断を疑わないと、どんどん損をしてしまいかねません。
また、会議などで「どちらの案を採用すべきか」という議論が沸き上がったときには、より合理的な思考過程をたどることが大事です。判断に少し時間がかかるようでも、こと仕事においては、アルゴリズム過程を用いた思考と判断が必ず必要になってきます。
自分がどんな思考過程を使って解を導いたのかを意識しよう
とはいえ、日々の選択をする中で、常に「ヒューリスティック過程か、アルゴリズム過程か」を意識しながら暮らすのは大変難しいと思われます。せめて、2つの思考のくせが存在することを知っておきましょう。自分が心から納得して導き出した解が、必ずしも正解ではないということだけでもわかっていれば、日常に潜む思考のスキに用心することができます。
そして、選択の後には「自分はどうしてこれを選んだのだろうか?」と、ときに自問自答してみるのが大事です。決して、完璧に合理的な理由で選んだわけではないことに、きっと驚かされることでしょう。しかし、ほとんどの選択は決して大きく的外れなわけではありません。そう考えると、人の思考のクセというのは本当に面白いものですね。
参考:『ぐっと身近に人がわかる 対人関係の心理学』山口勧、技術評論社 p.150