「WIN-WINの関係が大切だ」とよく言われますが、実際のビジネスの現場は、限りある資源の奪い合いだと思っていませんか? ビジネスだからこそ利益を分け合うことが大切だ、と教えてくれる心理学実験を紹介します。
- 最短距離は譲り合わないと進めない道
- 黒字になったのは協力したときだけ
- 「威嚇」しない関係のために必要なのはコミュニケーション
最短距離は譲り合わないと進めない道
互いが勝者となる「WIN-WINの関係」が大切だという話を聞くこともあるでしょう。どちらか一方が利益を独占するのではなく、互いが利益を得られるように調整することは確かに重要かもしれません。しかしビジネスの現場は決まったパイの取り合い。そんな悠長なことを言っていられないと感じる人も多いのではないでしょうか。
そんなビジネスパーソンにお教えしたいのが、心理学者のドイッチとクラウスが1960年に行った実験。実験参加者は、20~39歳のOL。2人1組となりトラックの運送ゲームをしてもらいました。
実験参加者はアクメ社かボルト社のどちらかに割り振られ対戦します。目的地からゴールまでトラックを運行させれば60セントが支給されます。ただし1秒1セントの運行費が差っぴかれるため、なるべく早くトラックを運行すればなりません。
出発点から目的地には、どちらの会社にも2つの道路が設定されています。
1つは出発点と目的地が最短距離になっているものの、一部が両社共用になっている一車線の道路。両社の進行方向が逆に設定されているので、同時に共用道路に入り込んだら、どちらかがバックして道を空けないと道を抜けられない仕組みです。しかもこの道路には、互いの会社がゲートを持っており、相手のトラックを走行できないようにできるのです。
もう一方の道路は、自社のだけが使えるものの曲がりくねっている「回り道」です。最短距離の道路より時間がかかるため最低でも10セント損をする仕組みになっています。
つまり最短の道を使うなら互いに譲り合うしかなく、回り道だと利益が薄くなってしまいます。その上、1回の運行に60秒以上かかると赤字になる仕組みでした。
黒字になったのは協力したときだけ
2人の心理学者は、このゲームを使って、3つのパターンを実験しました。
①両社がゲートを使えない場合
②片方の会社だけがゲートを使える場合
③両社がゲートを使える場合
すると20回の運行で両社とも黒字になったのは、両社ともゲートを使わない①の場合だけでした。逆に両社がゲートを使えるケースでは、両社の赤字が最大になりました。譲り合うどころか、相手の運行を邪魔するためにゲートを使ったからです。
では、片方だけがゲートを使える場合はどうだったのでしょうか?
じつは両社がゲートを使えるケースほどではないものの、やはり両社とも赤字になってしまったのです。片方だけが利益を得やすい環境のせいか、ゲートがないときのような協力体制が築けなかったのが原因でしょう。
「威嚇」しない関係のために必要なのはコミュニケーション
このゲートは心理学的には「威嚇」の象徴として設置されたものです。実験参加者は、譲り合いさえすれば互いに利益を得られるのに、威嚇の手段を持ったことで協力できなくなってしまったのでした。
片方だけが威嚇手段を持っていても、つまり自分だけが強者であっても、結局、赤字になったことは肝に銘じておくべきでしょう。威嚇をすれば自尊心を守るために反撃してくるケースも出るので、相手からの攻撃に対処する必要が出てしまいます。そうなると強者であったとしても、協力してビジネスを展開するより収益が落ちてしまうのです。
最終目標である利益獲得を無視しても、ときに人は他を排除するために威嚇をする。そうした傾向があることは、人間の一面の真実なのでしょう。だからこそ無用な威嚇をしなくていいように、円滑なコミュニケーションが必要になるのです。
冷戦時代、米ソ(懐かしいですね!)のトップが話し合うための「ホットライン」が設置されていました。国の対面を保つための「威嚇」抜きには語れない国際政治の世界でさえ、威嚇が決定的に利益を損なうような事態を避けるような仕組みが存在しています。
社内での過度な競争など、自分の周りにある「威嚇」をともなう人間関係について、どうしたら改善できるのかを考えるのも、生きやすくなる1つの方法かもしれません。