選択肢はどれぐらいあればいいか知っていますか?
適切な選択肢の数を、心理学的に考えてみたいと思います。
- 4分の1の選択で購入者が6倍に
- 販売する商品数をカットするためには
- 選択肢を少なくすれば幸福度が上がる
4分の1の選択で購入者が6倍に
選択肢に関連する最も有名な論文は、「買い物客とジャムの研究」でしょう。マーケティングの分野でも触れられることが多いので、聞いたことがある人も多いかもしれません。アメリカにあるコロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授がスーパーマーケットの試食コーナーで行った実験です。
教授が比べたのは、24種類のジャムを用意した試食コーナーと、6種類のもの。まず、立ち寄るお客は豊富に商品を並べた24種類の試食コーナーの方が多かったのです。買い物客の60%が店に立ち寄った計算になるそうです。
一方で6種類の試食コーナーは、買い物客の40%しか集客できず、24種類の試食コーナーの20ポイント減となりました。ところが実際にジャムを購入したのは客の30%にもなりました。24種類の試食コーナーが客の3%しか購入しなかったので、約10倍の割合を記録したのです。実際、両方の試食コーナーを比べると、購入者数では6種類の方が6倍多さとなりました。
つまり商品が大量に並んでいれば立ち寄る人は多くなるものの、実際に買うところまでたどり着かないというわけです。これは選択肢が多すぎた結果、決められなくなるという人間心理を証明した実験として大きな話題を呼びました。
販売する商品数をカットするためには
選択肢を少なくすればいいというビジネス戦略は、いろいろなところで実践されており、米国の家庭用品メーカーが26種類のシャンプーを15種類に絞ったことで売り上げが10%上がったという報告などもあります。
それでも、「なかなか商品を絞って売るのは難しいなー」と考えている営業の方などには、シーナ・アイエンガー教授の次のような言葉が参考になるでしょう。
「減らせばいいんです。通常、売上高の80%から90%は、およそ全商品のうち10%~15%の商品による売り上げです」
また、セールスマンが商品の違いを説明できないなら、客に伝わるわけもないのでどちらかを切るべきだとも語っています。
選択肢を少なくすれば幸福度が上がる
ここまでは販売など選択を促す側にとっての分析でした。では、実際に選択する側からみると、選択肢の少なさは消費者にとって幸福と感じることなのでしょうか? いろいろ迷ってジャムは買わなかったけれど、選ぶ時間だって幸福だと考えれば消費者の立場からすれば、やはり選択肢は多いほうがいいとも考えられるからです。
実際に前述のジャム実験でも、種類の多い試食コーナーの方が人を集めるのに成功していたのですから。
そうした迷いに社会心理学のバリー・シュワルツ教授が唱えている理論は参考になるでしょう。
教授は、「選択のパラドックス」として、選択肢が増えることで起きる悪影響について、次のように説明しています。
・無力感が生まれる
・満足度が下がる
選択肢が増えることで、人は選択を後回しにする傾向があるそうです。実際、「会社が提示する投資信託が10件増えるとともに 参加率は2%落ちた」と、さまざまなプレゼンターが登場する講演会TEDで語っています。
選択肢が増えて選べなくなってしまうと、結果的に実行できなくなってしまいますので無力感が生まれてしまう。このことは説明されれば、なるほどと納得のいく心理でしょう。
満足感が下がるのは、選択肢の中から選ばなかったものの良さを想像するからだそうです。また選択した後に少しでもマイナスの結果が出てしまうと選択を間違ったことを後悔してしまうことにもなるとか。
つまり選択肢が増えることは、選択する側にとって幸福とは言い難いようなのです。
これまで社会は選択肢を増やすことに力を注いできました。自ら判断し、自ら決めるためには、選択肢は多い方がいいと考えてきたからです。しかし選択肢が増え続けることで起きる「不幸」という側面を、いろいろな角度から考える必要が出てきたようです。
選択に関する心理実験については、今後とも記事にしていきたいと思います。