思い込みが激しい人、いますよね。妄想としか思えないような理屈で、持論をまくし立てたり……。聞き流していればいいなら簡単ですが、「放っておいていいのか」と感じることも。そこで激しい思い込みについて、対処法も含めて調べてみました。
- 注意したい2つのヒューリスティック
- 経験が思い込みを強めることも
- SNSが思い込みを強化する
- 思い込みを正す4つの手法
注意したい2つのヒューリスティック
思い込みの強い人に出会うことは珍しくないでしょう。普段は激しい主張をするわけではないのに、特定の分野に妄想としか思えない主張を繰り広げるタイプの人もいます。
では、どうして激しい思い込みが生まれてしまうのでしょうか?
まず、そこから考えてみましょう。
思い込みを誘発してしまう心理として、「ヒューリスティック」があります。ヒューリスティックとは、経験に基づいて素早く判断を下す方法です。物事を判断するとき、常に確率などを計算するわけにはいきません。そこで経験則に基づいて、結果を類推するのです。
ヒューリスティック自体は、脳に負荷を与え過ぎず、短時間で判断できる方法であり否定すべきものではありません。一方で、根拠の薄い判断を下してしまう可能性があるのです。
ヒューリスティックの代表的なものの一つが、代表性ヒューリスティックです。これは典型例とどれだけ似ているのかといったことから判断を下すものです。例えば、秩序や明晰さを好む男性で、あまり他人に同情はしないといった情報を聞いたとき、多くの人は彼の出身学部を教育学系ではなく、コンピュータなどを扱う情報系と思いがちです。体が大きいから、スポーツが得意といった思い込みなども、代表性ヒューリスティックにあたります。
思い込みを誘発しやすいもう一つが、利用可能性ヒューリスティックです。これは自分の入手しやすい情報や、思い出しやすい情報から判断する方法です。例えば、国内で死亡した人は「事故死」と「老衰」では、どちらが多いと思いますか? 正解は「老衰」ですが、「事故死」と答えた人も少なくないでしょう。これは「事故死」はニュースなどで見聞きすることが多い一方、「老衰」で亡くなった人のニュースは「事故死」と比較してあまり取り上げられないことから起こってしまう間違いです。
この2つのヒューリスティックは、「〇〇のタイプだから〇〇だ」とか、「自分の周りは、みんな〇〇だ」といった形で、思い込みや偏見に結びつきやすいのです。Webなどで偏った情報を仕入れる機会が多いと、利用可能性ヒューリスティックで間違った思い込みを誘発してしまうケースが少なくありません。
経験が思い込みを強めることも
「思い込み」に対して、客観的な事実を突き付ければ問題は解決するだろうと思う人もいるでしょう。しかし、コトはそう簡単ではありません。というのも客観的な事実を突き付けても、誤りを認めることは容易ではないからです。
その奥底にあるのは、「自分は騙されるほど愚かではない」という思いです。自分は知的で洞察力に優れており、簡単には騙されないというセルフイメージを保つために、自分だけが真実を知っていると思い込んでしまうケースは少なくありません。
こうした人にとっては、客観的な事実も「間違った情報」に過ぎないのです。
さらに現実の経験が思い込みを強化してしまうケースもあります。
例えば「デザインや芸術の仕事をする人は協調性がない」といった奇妙な思い込みがある人が、たまたま自分勝手なデザイナーと仕事をすると、その「思い込み」は一気に強まります。特にデザイナーと仕事をする機会が限られている人は、訂正する機会を持てないだけに、より強く思い込みにはまりがちです。
実際の体験は、さまざまな統計資料より強烈に印象に残るため、客観的な事実があまり効果を持たなくなります。
SNSが思い込みを強化する
SNSが思い込みを強くするといった現象も、近年、よく耳にするようになりました。その理由の一つは、エコーチェンバー現象です。ソーシャルメディアは自分と同じような意見を持つ人を集めやすいため、自分の発言に似た意見が返ってくる可能性が高まります。
自分の意見を間違っているという人はいるけれど、こんなに自分の意見に賛成する人もいる。そんな意識から思い込みをさらに強めてしまうのです。
またSNS上では専門家の意見が、知識を持たない人の意見と同列に扱われるという現象が起こります。結果、一部だけを切り取ってわかりやすいウソに仕立て上げられた思い込みが、ネット上で猛威を振るうことにもなります。
専門家が正確性を期そうとするために回りくどい表現になると、誰でも一瞬で理解できる明快な素人の意見の方が支持を集めてしまいがちです。
もちろん素人だからこそ、根本的な疑問を考えらえるといったこともあるでしょう。しかし確率的には、非常に稀な現象でしょう。
思い込みを正す4つの手法
それでは思い込みの強い人に、具体的にはどう対処すればいいのでしょうか? いくつかの対処法をまとめました。
①聞き流す
先にも示した通り、相手の思い込みを正すのは簡単ではありません。その「思い込み」が自分の信念になっているケースもあります。そうした思い込みを正すことは、激しい抵抗感を生みかねません。相手との関係性にもよりますが、聞き流すことも対処方法の一つでしょう。
②話し合える環境をつくる
事実関係を説明すれば、思い込みを捨ててくれそうな場合を除いて、いきなりの説得はあまりお勧めできません。
むしろ相手との信頼関係を築くことに時間を取ることが重要だと、ハーバードビジネススクールのローラ・ファン准教授は指摘しています。特に、思い込みを指摘すると、どうして彼らが侮辱されると感じるのかを考えることが重要だそうです。
つまり思い込みを捨てられない理由を、説得する側が理解する必要があるのです。
そこにあるのは当人の不安かもしれませんし、苦い思い出かもしれません。それをすべて話してもらうのは、かなりの時間を要しますが、その心情を推測できるぐらいには相手を理解する必要がありそうです。
③ギャップを見つける
思い込みと現実のギャップを見つけることも、思い込みを手放す助けになります。例えば、「女性はバカだ」といった思い込みを持っている場合でも、自分の娘は例外だと考えているケースがあります。
あるいは「間違いは許されない」といった思い込みがある人でも、特定の人の間違いには寛容だったりすることがあります。ときには人には厳しく、自分の行動には甘いというケースも。そうしたギャップを発見することは、説得材料として非常に有効です。
④質問をする
激しい思い込みに辟易とした経験がある場合、相手を言い負かしたいという思いが募る場合もあるでしょう。しかし思い込みを手放させたいのなら、攻撃的な物言いは厳禁です。
逆に質問するのがいいでしょう。「娘さんのことも頭が悪いと思っているんですか?」「〇〇さんの間違いは気にならないんですか?」といった質問は、思い込みについて改めて考える機会を与えることになります。
そのとき、そうした指摘が相手の気にしている侮辱にならないように気を付けましょう。「地雷」を踏んで、相手が思い込みの中に籠らないように気を付けないといけません。
今日は思い込みへの対処方法をまとめました。
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監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
参考:『クリティカルシンキング 入門編』(E.B.ゼックミスタ,J.E.ジョンソン/北大路書房)/「How to (Actually) Change Someone’s Mind」(Laura Huang/Harvard Business Review)/「How to Persuade People to Change Their Behavior」(Jonah Berger/Harvard Business Review)