先行きの見えない不安もあり、何となく昔より社会情勢が悪化しているように感じることもあるのではないでしょうか。でも、もしかすると、それは「ネガティブ本能」に突き動かされた思い込みかもしれません。「世界はどんどん悪くなっている」と感じるのはなぜかということについてお伝えします。
- 大半の人が世界情勢の悪化を感じてる!?
- 犯罪が減ると報道される!?
- 記憶は美化され悲惨な歴史も残らない
- 貧困者は減り、核兵器も減った
大半の人が世界情勢の悪化を感じてる!?
「昔はよかった」が口癖のようになっている人はいませんか?そこまでではなくても、世界がどんどん悪くなっていると感じている人は少なくないでしょう。こうした思い込みを『ファクトフルネス』の著者ハンス・ロスリングは、「ネガティブ本能」と名付けています。
30か国の人に、「世界はどのように変化していると思いますか?」という質問に、「どんどん良くなっている」「どんどん悪くなっている」「あまり変わっていない」という3つの選択肢を用意したところ、世界の大半の人が「世界はどんどん悪くなっている」を選んだというのです。アジア、欧米諸国、中東の国々でも「どんどん悪くなっている」の数が過半数を超えています。
『ファクトフルネス』によれば、極度の貧困にある人の割合は過去20年で約半分となったといいます。これが1800年頃までさかのぼると、人類の約85%が極度の貧困層だったというのですから、歴史的に見れば貧困問題は解決に向けて動き続けているといえます。
犯罪が減ると報道される!?
じつは日本でも実際に社会情勢が悪化したのかどうかが問題になることがあります。過去には少年犯罪の凶悪化が問題になりました。1997年に起きた「酒鬼薔薇聖斗」と名乗る14歳の少年が起こした神戸連続児童殺傷事件は、3年後の少年法の改正につながりました。
当時、少年犯罪の凶悪化や増加が議論されていましたが、じつは凶悪犯とされる殺人、強盗、強姦、放火の件数は1965年以降減少していったことがわかっています。
これは当時の新聞記者に聞いたのですが、昔の方が少年犯罪も多かったので、ニュースバリューも低かったそうです。「犬が人を噛んだらニュースにならないが、人が犬を噛んだらニュースだ」という、英国のジャーナリスト、アルフレッド・ハームズワースが表現した通り、滅多に起こらない悲惨なネタほど報道機関は報じるのです。
そのため社会状況が良くなると、逆に犯罪が目立ってしまうといったことが起きてしまう可能性もあるようです。
記憶は美化され悲惨な歴史も残らない
また、「ネガティブ本能」は記憶との関連もあるそうです。
ジャーナリストのラッセ・ベリは、1970年代にインドの片田舎で取材をしました。25年後、同じ村を訪れて当時の写真を村人に見せると、「この村はこんなに貧しくなかった」と、口々に申し立てたそうです。
多くの人は今のことで頭がいっぱいで、昔の記憶が薄れがちになるのだそうです。しかも悲惨な話は、意識しなければ世代を越えて受け継がれることは少ないらしいのです。
これが「昔はよかった」の正体の一つでもあるようです。
貧困者は減り、核兵器も減った
最後に『ファクトフルネス』に紹介されている社会情勢の改善例をあげておきましょう。HIV感染者は1996年を境に減少。100万人あたりの人数も1996年が549人なのに、2016年は241人と半分以下になっていました。
核兵器の数も1986年から減少。当時6万4000発もあった核兵器は、2017年には1万5000発まで減っているのです。
一方、農作物の収穫高は、1961年当時は1ヘクタールあたり1.4トンしか収穫できなかったのに、2014年では4トンまで伸びているのです。
予防接種も世界中の1歳児のうち、何らかの予防接種を受けている子どもの割合は、1980年は22%だったのに対し、2016年は88%になっているのです。
どうでしょう?ロングスパンで考えると、希望ある未来を信じられるような気がしませんか?
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参考:『ファクトフルネス』(ハンス・ロスリング 著/日経BP社)