「なんだか老けたな」と思ったことはないですか? 「夜更かしに弱くなった」「見た目が老けた」などなど、その理由はさまざまです。でも、もしかすると老けたという思い自体が老化を進めているかもしれません。
- 波平さんは何歳?
- 老化を決めるのは意識
- メディアが老いへの意識を強化する
- ネガティブな年齢差別を書き出す
- 喪失だけではなく成長にも目を向ける
- 好奇心を持ってチャレンジする
- 体の管理をしっかりする
波平さんは何歳?
年齢を重ねれば、老けていくのが当たり前とは誰もが思うでしょう。いつまでも若くはいられないのも事実です。では、自分が受け入れられる「老化」はどれぐらいが「適正」なのでしょうか? それこそ「美魔女」などを基準にすれば、老化の基準は大きく変わるでしょう。
では、問題です。
「サザエさん」に登場する波平さんの年齢はいくつでしょうか?
正解は54歳。現在の基準からすると、思ったよりずいぶんと老けている印象ではないでしょうか? それもそのはず。「サザエさん」の新聞連載が始まったのは昭和20年代。そして当時の日本人の平均寿命は、終戦から2年後、昭和22年(1947年)が男性50.06歳、女性53.96歳 、それから3年後の昭和25年(1950年)でも、男性59.57歳、女性67.75歳だったのですから。定年も55歳と、今より若く設定されています。
つまり波平さんの年齢が設定されていたであろう時期は、男性は定年まで勤めあげ10年たたずになくなっていく人生だったのです。そう考えれば、波平さんの容姿がここまで老けているのも納得でしょう。
ちなみに2022年12月に発表された厚生労働省のデータによれば、日本の平均寿命は男性が81.49歳、女性が87.60歳となっています。1950年と比べて、男女とも20年近く寿命が延びていることになります。そして、まだ今後も伸びるのではないかと推測されているのです。
つまり社会状況によって見た目や社会制度上の扱いにおける「老人」の年齢はかなり変わってきます。では、自分にとっての「適切な」な老化とは、なんなのでしょうか?
老化を決めるのは意識
老け方に関する認識について質問したのは、その認識と老化が強い関係があるからです。
イェール大学の心理学者ベッカ・レヴィらの研究グループは、人々が年齢を重ねることをどう認識してかが、寿命の長さに非常に大きな影響を与えると結論付けました。自分の老化をより前向きに認識していた実験参加者は、年齢に肯定的な信念を持たなかった人より、平均で7年半も長く生きしたというのです。「性別」「社会的地位」「経済状況」「孤独感」「機能的健康」よりも大きな影響を与えたというのですから、驚くべき結果でしょう。
また、この論文によれば、年齢の考え方が影響を与えるのは、寿命だけではありません。老化を前向きにとらえている人の方が「身体的および認知的なパフォーマンス」がよく、記憶力や歩行のスピードも良かったらしいのです。さらには「重度の障害から回復する可能性」も高かったとのこと。
つまり考え方を変えれば、老化が訪れにくくなるというわけです。
メディアが老いへの意識を強化する
ただ、老化をポジティブに捉えるのは容易ではありません。それは転職でも年齢が大きな壁になっている通り、世間一般が加齢をプラスに捉えていないからです。
そうした傾向はアンチエイジング市場の拡大にもつながっています。2022年には市場規模が672億米ドルにもなり、2028年には986億米ドルに達するという見方もあります。ちなみに2020年のPCと家庭用ゲームを併せた世界のゲームの市場規模は886億ドルなので、あと5年後にはその規模を超えてしまうのです。
アンチエイジングの活性化は、老化への不安を喧伝することにつながります。自然に任せて年を重ねるとネガティブな状態になるから、もっとアンチエイジングの商品を使って若さを保ちましょうという宣伝を打つからです。
ネット、テレビ、新聞、雑誌などあらゆるメディアは、年齢に対してネガティブなキャンペーンを打つ中で、自身の気持ちを若く保つのは簡単ではありません。
しかも2012年に三菱電機エンジニアリングが実施したアンケート調査によれば、「あなたの理想的な年の取り方を教えて下さい」という質問のトップは、44.9%を占めた「年相応になっていく」でした。2位が「成熟していく」41.2%、3位が「若くなっていく」13.8%という結果となっています。
年齢より若く見えることを望むのは理解できるものの、「年相応」だからと自分が若々しくありたいという思いを諦めてしまうと、それだけ老化が進む可能性があるのです。
では、老化に対するネガティブな認識を防止するために、何をしたらいいのでしょうか?
さまざまな記事・論文から実行しやすそうなものを紹介しましょう!
①ネガティブな年齢差別を書き出す
先程の紹介したイェール大学の心理学者ベッカ・レヴィが勧める方法の一つが、年齢に対するネガティブな思いを作り出す原因をしっかり認識すること。そのために1週間、老化に関するあらゆる描写を書き留めてみましょう。友人同士の会話で「年取ったよな」と笑い合うのはもちろん、テレビなどで老化を茶化したり、心配したりする言動もチェックします。
こうした何気ない会話などから、私たちは自分なりの「年相応」を、年齢に対するマイナスイメージとともに作りだしてしまいます。過度にこうした風潮に感化されないためにも、何が自分に悪影響を与えているのかを可視化する必要があります。
②喪失だけではなく成長にも目を向ける
私たちは年とともに起きる喪失だけに目を向けがちです。老眼で見えにくくなったり、皺ができたり、寝不足に弱くなったり、どんどん能力を失っているような気になります。
しかし年齢にともなってできなくなっていること自体は、子ども時代から続いています。子どものときのように漫画に夢中にはなれないし、いきなり走り回りたくもない。そうした「能力」の「喪失」を、私たちは気に留めません。それは長い小説に夢中になれるようになったり、車の運転ができるようになったという成長に目が向いているからです。
加齢は喪失だけではありません。物事に冷静に対処できるようになっているかもしれませんし、さまざまな経験からアドバイスの引き出しが増えているかもしれません。自分の成長をしっかりと考えてみましょう。
ちなみに近年の研究では、人間の脳は使い続ける限り成長し続けることがわかっています。かつて脳は大人になると成長しないと考えられてきましたが、その発想自体、ネガティブな老化のイメージを反映したものだったともいえそうです。
③好奇心を持ってチャレンジする
年齢を理由にあきらめていることの多くは、ただの思い込みかもしれません。むしろ「年だからできない」という思いが、自分を老けさせ、チャレンジ精神を奪っていきます。
自分の年齢の壁を、自分で超えていけるように挑戦してみましょう。その思い込みが崩れることで、より若々しく動けるようになるでしょう。
④体の管理をしっかりする
しっかりと睡眠を取り、健康的な食事をするといった身体管理を、しっかりとしてみましょう。体への負荷が強いときほど、年齢を感じてしまうケースが多くなりがちです。
若々しく生きるために、しっかりと自分を管理する大切さは、ベテランのアスリートの多くが口にすることです。自分もトップアスリートになったつもりで、しっかりと日々の生活を管理してみましょう。
今日は老化の原因と、その対処法について説明しました。近年、寿命を削る原因として「孤独」に注目が集まっていましたが、それ以上に影響を及ぼすのが「老いへの意識」だという研究結果は驚きのものです。より健康に過ごすためにも、自分の意識を少しずつ変えてみませんか?
心のしくみについて興味のある方は、こちらもご覧ください。
監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
参考:「Don’t let ageism define you. How to enjoy life at every stage」( Andee Tagle,Audrey Nguyen/LIFE KIT)/「Here’s How to Stay Happier as You Get Older」(Loren Soeiro, Ph.D./Psychology Today)